台風12号が遅々として進まず、暴風雨そして濃霧の中を八ヶ岳に向かう。
八ヶ岳に直結している中央道は大月を中心に通行止め。中央道に沿うように走っている国道20号は大渋滞。
やむなく東名高速で御殿場まで行き富士の裾野から峠をいくつか超えて甲府にでた。
小屋に着くと前日から入っていた「あすなろ山の会」のメンバー数人が出迎えてくれる。
いやぁ、今回はこの台風。
人は集まれないけど、しょうがないよね。
なんもさ!
来られる人だけで充分。
ゆったりやりましょうや。
テラスに仮設の屋根をつけたんだよ。
多少の雨ならしのげるけど…
風があれば小屋の中でやるしかないね。
見ると例年ステージになってきたテラスには透明プラスチックの板とビニールシートで屋根がかかっている。
簡単に撤去できるようにと釘は使わず紐で結わえて作られている。
それでも雨はしのげるようになっている。
さすがにこの小屋を手作りした山男たち。手先の器用さと強引さが同居したような仮設屋根だ。
テラスでコーヒーを飲みながら雨に煙る森を眺めながらのよもやま話。
やがて三々五々と参加者たちが集まり始める。
出演者、オーディエンス合わせて最終的に10名。
雨が弱まる気配もないので小屋の中で音楽会をやることになる。
小屋の中でやるのは第5回目以来。
雑然とした小屋だがそれもまた悪くはない。
達ちゃんがテラスで焼き鳥を焼き始める。80本だ。
第1回目から焼き鳥を焼き続けてきた先輩だ。慣れた手つきでひょいひょいと焼いていく。
小屋のオーナー二郎さんと要(かなめ)ちゃんはやはり音楽会名物の豚汁づくり。
その脇で信州から初参加の界屋(さかいや)さんが信州素材を使ってジンギスカン作り。
川崎からオートバイで7時間かけてやってきたゼファーさんは、寄り道してわざわざ仕入れてきた地酒のうんちく。
甲州のチャーリーさんはテラスで予行演習に余念がない。
参加者全員が音楽会スタートに向けて思い思いに動き出す。
常連も初参加も関係ない。全員が準備の段階から協力し合う様子はいいもんだ。手作り音楽会ならではの風景に心が温まる。
やがてch@boz(ちゃぼうず)さんから電話が入る。
国道20号をいまだ大月だそうだ。
横浜を出発してすでに7時間。到着にはさらに3時間はかかる。まさに酷道だ。
当日電車組の村田御大も、電車がかなり遅れようやく富士見駅にたどり着いたとの連絡。
森の小さな小屋に嵐に抗して集まってくれる人たち。
頭が下がる思いだ。
準備段階からすでに小屋の中は充分に温まっている。
定刻4時から大幅に遅れはしたが、音楽会はなんとなく幕を切って落とす。
以前の大がかりな音楽祭だったころは開会の挨拶があり、おもむろに始まったものだ。あれはあれで身が引き締まる感じがあってよかった。
でもこの「なんとなく始まる」感もとても心地よい。
これから音楽会が始まるぞ!
みたいな構えた感じではなく、呑んで、しゃべって、その延長に音楽がある。
音楽が始まればそれを肴におしゃべりがあり、酒がさらに進む。
トップバッターはすでにレギュラーとなった甲州のチャーリーさん。
3回出演のこの人は会を重ねるたびに目に見えてうまくなっている。
最初はギターをジャンジャカかき鳴らしながら歌うって感じだった。
「唄が好きだから歌う」という音楽の原点をストレートにやっていた。
それが聴き手と歌を共有するという風に変わってきた。
ギターも歌もいろいろ工夫されている。あちこちで場も踏んできた。
聴き手とコミュニケーションがとれるステージになっている。
チャーリーさん
あんたもずいぶん揉まれたんだね
素直にそう感じさせてもらえる演奏だった。
1順目は長淵剛のカバーを
2順目はビートルズを
3順目は酔っぱらい、つぶれ、演奏せず
理想的な「呑み歌会」を体現してくれた。
2番手は信州の絵仕事 界屋(さかいや)さん。
フィンガーピッキングのカントリーブルースをされる方。
身体をふりふり、にこにこ笑いながら、ちょっとコミカルなステージだ。
でもそこに確かな技術の裏付けがある。
存在感たっぷり!
歌もギターも抑えぎみなんだが、言葉の一つ一つが前に出ていてよく伝わってくる。
大笑いしながらも、どこかほろりとする味のある演奏に感心した。
3番手はゼファー750さん。
この嵐の中をバイクを7時間も飛ばしてやってきたツワモノ!
ストレートなメッセージソングを中心に歌う。
70年安保の時代に思春期~青春期を送り、当時のプロテストフォークの影響を強く受けている。それが歌にしみ込んだストレートなステージだった。
面白かったのは60年安保の時代を生きてきた「あすなろ」の長老たちとのやり取り。それぞれが生きてきた時代背景の違いが浮き彫りになるちょっとした議論。
まるで昔のフォーク集会が思い出される一コマだった。
4番手はMartin(まぁちん)古池
僕にとってはホーム中のホームがこの音楽会。
普段のライブはそれなりに緊張感をもって臨むんだが、ここではそのかけらもない。しゃべってるんだか、歌ってるんだかその境目がよくわからない状態だ。
それが許されるからこそ楽しいというのも事実かもしれない。
そんなわけで何をどう歌ったか、ほとんど覚えていない。
「楽しかった」というイメージだけが残っている。
5番手はチャボウズさん。
横浜から延々10時間もかけてやってきてくれる。
(遅れて到着したチャボウズさんの顔を見た瞬間、ホッとして日本酒に一気に走ってしまった)
行動を共にすることの多い彼の演奏をこの音楽会でぜひ披露してほしかった。念願がかなった思いだ。
いつものように昭和歌謡や童謡・唱歌を中心に歌う。
選曲や深い歌が聴き手の琴線に触れているのが手に取るようにわかる。
きわめつけはアイルランドの古い歌。小屋全体がシーンとして聴きいってしまった。
つくづく引き出しの奥が深い人だと思う。
オーディエンスは「あすなろ山の会」の長老たち。これまでこの音楽会を支えてきてくれた人たちだ。
思い思いに腰を下ろし、テーブルに積まれた料理をつまみながら酒を酌み交わし、ここぞという時にチャチャを入れてくる。
最高のオーディエンスだ。
かくして森の音楽会は続き、とっぷり夜も更けいつの間にか深夜に。
楽しきことこの上なし。
⇒絵仕事 界屋さんのブログ記事
⇒チャーリーさんのブログ記事
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