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2024.11.25

駅 STATION

高倉健主演の映画「駅 STATION」をあらためて見直した。
何度目だろう。
いつ見ても、胸が熱くなり涙腺がゆるむ。
監督は降旗康男、脚本は倉本聰、そして撮影は木村大作。
映画は三上英二(高倉健)をめぐる三人の女たちが横糸に、警察官・三上英二の男としての生き方をめぐる苦悩と男の美学(?)を縦糸に展開する。
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[1968年 銭函 直子]
物語の始まりは雪の銭函駅ホーム。
妻・直子(いしだあゆみ)との別れから始まる。
原因は詳しく描かれていない。
道警の刑事であり、同時に東京オリンピック(1969年)の射撃選手に選ばれていた英二。
多忙の故に家に戻れぬ日々が続いたのだろう。
淋しさの故にか直子はただ一度の「あやまち」を犯す。
英二はその事実を受け入れられず、離婚につながったのだろう。
走り始めた汽車から半身を乗り出し敬礼する直子の眼には涙が。
英二は気づいていなかったのか、ホームから線路を見つめるのみ。
もしかしたら気づいていても見返すことをしなかったのかもしれない。
二人の心理を映画では説明されず、視聴者の想像にゆだねられている。
連続警官射殺犯、森岡(室田日出男)の張り込み中の出来事。
英二の上司であり、射撃の先輩でもあった相馬(大滝秀次)は、英二の眼前で森岡に射殺される。
森岡は車で逃走し、姿をくらます。
森岡は指名手配22号とされる。
追跡を続けたかった英二だが、道警からの命令で外されオリンピックに専念することになる。
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[8年後、1976年 増毛 すず子]
英二はオリンピック強化コーチを務めながら、一方で赤いミニスカートの女だけを狙う通り魔を追っていた。
増毛駅の近く、風待食堂で働くすず子(烏丸せつこ)の兄・五郎が犯人として捜査線上に浮かんできた。
道警はすず子を張りながら五郎の現れるのを待っていた。
しかしすず子は警察の張り込みを知りながら「とろい女」を演じながら隠し通していた。
そんなある日、すず子は人目を忍んで留萌に出かけチンピラ・雪夫(宇崎竜童)の子を堕ろす。
雪夫は英二に喧嘩を売り、コテンパンにのされたのをきっかけに、(勝手に)捜査への協力を申出る。
すず子は雪夫に思いを寄せていた。
雪夫は結婚を口実にすず子を口説く。
すず子は雪夫を兄・五郎に会わせるために五郎の潜伏する上砂川に。
夜陰に乗じ、線路を歩いて来る五郎(根津甚八)。
五郎に駆け寄りしがみつくすず子。
突然あたりから現れる警官隊。
すず子の悲鳴。
(このシーンの舞台となった上砂川は後に『昨日、悲別で』というドラマの舞台となった駅。)
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[3年後、1979年 暮れ 桐子]
実家のある雄冬に帰省するため増毛に再びやってきた英二。
死刑が執行された五郎の墓に参る。
その後立ち寄った風待食堂ではすず子がまだ働いていた。
時化のため連絡船は欠航。
夜の増毛をさまよう英二の目に赤提灯が。
「桐子」という名の居酒屋に客は誰もいない。
女将の桐子(倍賞千恵子)所在なげにテレビの歌番組を見ている。
ひかえめに交わしあう言葉。
テレビからは八代亜紀の「舟唄」が流れる。
外には深深と降りしきる雪。
自分と同じ孤独の影をやどす桐子に惹かれる英二。
大晦日、留萌の映画館で観て肩を寄せ合いながら雪道を歩く二人。
そして結ばれる。
二人で出かける初詣。
物陰で桐子を見つめる男の視線に気づく英二。
雄冬での正月を終えて札幌へ帰る増毛駅。
船着き場に迎えに来ていた桐子。
そのまま増毛の駅へ。
待合で言葉を交わす二人。
初詣で桐子を見つめていた男のことを話す桐子。
「昔ちょっとあった人。もう帰った。終わったわ」
その視線の先には壁に貼られた指名手配のポスター。
そこには「指名22号・森岡茂」の似顔絵。
札幌へ帰る列車の中で警察官を辞す覚悟を決める英二。
心の中には雄冬に暮らす年老い「惚けてきた」母(北林谷栄)のこと。
桐子とのことがあったかもしれない。
その頃警察に森岡茂が増毛にいるとの「女からのたれ込み」があった。(通報したのは桐子だった)
英二は札幌の警察署から再び増毛へ。
居酒屋「桐子」は店を閉じていた。
吹雪の中を桐子のアパートを探し当てる。
桐子の部屋には森岡が潜んでいた。
英二に銃を向ける森岡。
森岡に発砲し胸を打ち抜く英二。
その夜、居酒屋「桐子」の暖簾をくぐる英二。
視線を合わせることもなく、言葉にもならない桐子。
重苦しい空気。
テレビから流れる「舟唄」に耳をかたむける桐子。
一筋の涙がこぼれる。
再び増毛駅。
そこにはすず子が。
札幌で働くことが急に決まったと馴染みの駅員の問いかけに応えるすず子。
道警本部長にあてた退職願を握りつぶす英二。
デレッキで石炭ストーブの蓋を開けそれを放り込む。
列車に乗り込むすず子のうしろ姿を見つめる英二。
深川に向けて発車する最終列車。
列車には乗らず一人たたずむ英二。
「舟唄」が流れる。
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いささか長くなった。
英二の胸に残ったものはなんだったのだろうか。
警察官としての職務を果たす中で三人の女たちの運命を変えてしまったという慚愧の念か。
それでも警察官として生きていくしかないとの想いか。
脚本を書いた倉本聰は映画の中でその結論を出してはいない。
映画を観た者に投げかけて終わっている。
実はこの映画の脚本はもともと2倍の量だったそうだ。
しかしそれではとても2時間ほどの尺には収らないため、降旗監督や田中プロデューサーとケンケンガクガクの上半分まで削除したという。
もし、最初の脚本通りの映画であったならと考えてしまう。
直子との離婚のいきさつやすず子と兄・五郎との関係、そして桐子と森岡の関係なども描かれていたかもしれない。
それを知りたいと思う反面、視聴者の想像に委ねた完成版でも良かったのかもしれないとも思う。
数年前、僕は北海道の炭鉱町を旅したことがある。
その時この映画の主なロケ地もまわった。
増毛、留萌、上砂川などをまわりながら「駅 STATION」のシーンを思い浮かべていた。
映画が公開された1981年。
まだ鉄道は走っていた。
増毛や上砂川は当時の駅舎は保存されている。
留萌は取り壊しを決定したらしい。
(陸路のなかった雄冬はこの年雄冬トンネルが開通しオロロンラインで行き来することができるようになっている)
この映画の最初の脚本ではタイトルが「驛舎」だったそうだ。
銭函、増毛、留萌、上砂川などの驛舎でくり広げられたいくつかのドラマ。
それぞれに個別の独立したドラマではあるが、主人公三上英二(高倉健)を通してつながっていく。
何度観ても見飽きることのない映画だ。
https://youtu.be/_LyYZQsNWnk

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