「ふきのとう」 「おーるどたいむ de ライブ 夏の陣」を終えて
【ふきのとう】
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おーるどたいむ de ライブ 夏の陣の第2部はフォーク・デュオ「ふきのとう」を特集した。
シリーズ「北海道の生んだ歌い手たち」の第5弾だ。
ふきのとうには熱烈なファンがいたが、その知名度はさほど高いとは言えないかもしれない。
ふきのとうの歌を知っているというお客様はあまりいなかった。
(熱烈なファンだった方はおひとりいたが)
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第1部は「誰もが知っている歌の数々」をお客様参加型の、さながら歌声音楽会のようなステージだった。
一転して第2部では「誰も知らない歌の数々」をじっくり聞いていただくステージになった。
「白い冬」「風来坊」などスマッシュ・ヒットした歌はあえてやらなかった。
「知られざる名曲」を演じ、紹介するステージにしたかった。
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選んだ歌は次の通り。
1.水色の木漏れ日
2.春雷
3.雨はやさしいオルゴール
4.やさしさとして想い出として
5.五色のテープ
6.夜
7.想い出通り雨
8.それぞれの幸せ灯る頃
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ふきのとうがデビューしたころ僕は高校生だった。
札幌と雨竜町出身の二人が織り成すハーモニーは美しかった。
クラスメイトにも追っかけをするほど熱烈なファンがいた。
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僕はといえば、ふきのとうを軟弱な「軟派系フォーク」としてちょっと小ばかにしていた。
それというのも当時の僕は反戦歌やプロテストソングといった社会派フォークに心酔していたためだった。
そんな自分を「硬派系フォーク」と自認していた。
(「〇〇系フォーク」といういい方は「三派系全学連」という学生運動の呼称をもじっていた)
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50年の歳月を経てあらためてふきのとうに挑戦してみて心打たれた。
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なんて繊細なんだろう
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ふきのとうの歌の世界は青春期の若者の揺れ動く情感を映し出していた。
恋に胸をこがし、恋に破れ、傷心した心を引きずるあの頃の自分を思い出させてくれる。
(バンカラ、弊衣破帽を自認する「硬派系」男子だった僕は、人様にはそんな姿をおくびにも出さなかったけど)
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若者の繊細な情感を歌いたかった。
特にそういう歌を選んでいったら初期のころのアルバムからの選曲が多くなった。
触れれば壊れそうな若者の情感を、70歳を前にしたオッサン(ジジイ?)にはたして歌えるのかという不安もあった。
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そこでそれぞれの歌の世界から一歩引いたところから眺めるという立ち位置で歌うことにした。
そのためには自分の存在を極力なくす必要があった。
情緒過多に陥らぬよう、淡々と演じようと思った。
演者の情緒を排することで歌の世界の情景が逆に浮き彫りになればいいという挑戦だ。
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今回もふく助さんがベースを弾いてくれた。
これがとてもいい効果を発揮してくれた。
歌の輪郭をベースが出してくれるので、僕はシンプルなストロークを弾けばよかった。
その上に乗って淡々と歌うことができた。
ギター一本で歌う場合、情感を表現するために経過音や装飾音を挟み、ピッキングにも強弱をつける。
時にはブレイクを挟んだり、曲中にテンポを変化させることも常套手段。
今回やるふきのとうではそういうものは不要で、むしろ邪魔になると感じていた。
だからベースには大いに助けられた。
歌い手としての感情をコントロールすることができたように思う。
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最後の歌「それぞれの幸せ灯る頃」にはらんぶりんまっくさんにもマンドリンで参加してもらった。
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実はこの歌はステージの中で大きな位置を占めていた。
そこまではひとつひとつの歌物語を紡いできた。
50年前の若者の心をちょっと横から眺めるように歌ってきた。
しかしこの歌だけはちょっと歌の中に入り込んで、感情を強めに投影して歌った。
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自分を見つけるところから始まる
ほんとうの旅があるような気がする
手探りしながら歩いてる僕を
君は待っててくれるだろうか
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過去と現在、そして未来をつなぐうたという位置づけだった。
らんぶりんまっくさんのマンドリンには華がある。
過去を振り返るウェットさと明日につなげる希望への思いが同居ているように感じた。
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またステージ進行上も大切な1曲だった。
1部では歌声音楽会的なヒューマン・ジュークボックスにお客様は気持ちを開放してくれた。
2部のふきのとうではそれぞれの歌の世界に聞き耳を立てるようにじっくり聴いていただけた。
エンディングテーマの「街」、そして勝手にアンコールの「さよならが云えない」につないでいけるのは「それぞれの幸せ灯る頃」しかなかった。
ライブの終わりは明日に向かってしっとりと、そしてにぎやかに〆たい。
カントリータッチのこの歌はその意味でもぴったりだった。
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お客様と一緒にしっとりと歌う「街」ではいつものことながら玲子ママのハンマーダルシマーがいい情感を演出してくれた。
出演者全員で奏でるにぎやかなブルーグラスタッチの「さよならが云えない」。
やはりブルーグラス・フィドラーの椋野マスターが引っ張ってくれる。
らんぶりんまっくさんのマンドリンもソリッドなソロで突っ込んでくる。
ムチャぶりでふく助さんにベースソロを弾いてもらったがこれもよかった。
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一緒に演奏してくれた皆さん、ありがとうございます。
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場を盛り立ててくれていただけました。
そして時にじっくり耳をそばだて、時に一緒に歌い、チャチャを入れ、おしゃべりに加わってくださったお客様ひとりひとりに深く感謝いたします。
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