五代目 柳家小さんのこと
書棚から昔読んだ本を引っ張り出しての再読が楽しい。
若い頃読んだときには感じられなかったことが、今の年齢なりに感じられることが新しい発見になる。
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1994年第3刷発刊本を古本で買った上製本(ハードカバー)だ。
葛飾柴又の健文堂古書店で1500円で購入したと記録されていた。
おそらく江戸川河川敷のグランドで共同印刷サッカー部の試合後、チームメイトと別れてひとりで散策しながら見つけた古本屋さんだろう。
その時の記憶も、なぜ小さん師匠の本を買ったかも記憶に残っていない。
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「昔ばなし」として小さん師匠の戦争体験を軽妙な語り口で書かれていたこと。
小さん師匠が二・二六事件にまきこまれていたことの驚き。
そんなことが読後感として残っている。
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五代目 柳家小さん師匠のことはよく覚えている。
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東京に出てきて最初の冬だった。
僕は学校に近い巣鴨にあった「磯忠」という飲み屋さんでアルバイトをしていた。
貧乏学生で日々の食はアルバイトの給金に頼らざるを得ない暮らしだった。
そんな中で「磯忠」のまかない飯と、客の飲み残した燗冷ましをくすねて飲めることは魅力的だった。
(僕はここでお酒を覚えたようなものだ)
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小さん師匠は時折「磯忠」に奥様と連れだって足を運んでこられた。
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当時、「大関」(だったと思う)のテレビ・コマーシャルで小さん師匠が旨そうに酒を飲むシーンが流れていた。
ぐいーっと呑み干して、額をぺたんと叩き、目を細めるシーンが印象的なコマーシャルだった。
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はたして「磯忠」での小さん師匠がどんな呑み方をされるのか、興味津々で眺めていた。
が、期待に反して師匠は言葉少なに淡々と呑まれるのみ。
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コマーシャルでの表情ってのはやはり芸なんだな
にしてもいかにも旨そうに飲み干す芸
やっぱりすごいもんだ
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妙に感心したものだった。
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小さん師匠の「試し酒」という動画を見つけた。
五升の酒を呑めるか呑めないかというお得意先(?)の「だんなさん」と「使用人」の賭け話。
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大きな杯を抱え込む姿。
呑むほどに酔うほどに変わっていく「使用人」の表情の変化。
酒を飲み干すたびにきこえる聞こえる「ごくっ」という音と舌鼓の音。
迫真の芸だ。
そして一升杯に見立てられた扇が、本当に大きな杯に見えてくる妙。
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あらためて感心させられた。
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