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2022.08.09

認知症予防のための音楽教室



お役所からの委託(の委託だから孫請け)で、認知症予防のための音楽教室のお手伝いをさせていただいていました。
5月の連休明けから始まり、毎週1回の教室です。
昨日がその最終日。
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市の施設を利用し、およそ1時間半の教室でした。
体操の専門家と組み、音楽担当が僕の役割。
参加者は20人の高齢者で、そのほとんどが後期高齢者です。
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認知症を予防したり、進行を和らげるというのが目的。
体を動かすこと、歌うことを暮らしの中に取り入れ、習慣にしていただくためのきっかけ作り。
そんな色彩の強い教室でした。
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音楽療法士の作成したカリキュラムに従って進めていきます。
歌の部では毎回7~8曲を30~40分の枠内で。うち何曲かは体操に合わせて歌います。
(複数のことを同時に行うのが認知症予防には良いとのことでした)
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僕自身は音楽療法士の資格を持っているわけではありません。
それでも老人施設などで長年歌ってきた経験から、歌うことが認知症の予防につながるということは実感してきました。
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音楽を聴くことを「受動的音楽療法」、自ら歌うことや楽器を演奏することを「能動的音楽療法」というそうです。
どちらも認知症予防には効果があるのですが、やはり能動的であることの方がベター。
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歌うことの効果はいろいろあるようですが、経験的には「回想効果」が大きいように感じます。
音楽は昔の記憶と結びつきやすく、脳に刺激を与えるのがいいんだと思います。
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特徴的な出来事がありました。

「青い山脈」と「高校三年生」を歌った時の反応の違いです。
「青い山脈」は昭和22年に石坂洋二郎の同名小説をもとに作られ、戦後日本で一世を風靡した名曲です。
参加者の方々も当然ご存じでちゃんと歌いきっていただけました。
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ところが「高校三年生」のイントロを弾き始めるやいなや、ギターに合わせて皆さん目をキラキラさせてハミングで合わせ始めました。
間奏もイントロもしっかりと違うことなくハミングを。
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参加者の皆さんの多くは後期高齢者ではありますが、ほとんどの方は戦後生まれ。いわゆる「団塊の世代」です。

「青い山脈」がヒットしたころはまだ幼かったか生まれていなかった。
歌としては知っていても、歌の背景にある時代を実感しているわけではなかったのです。
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一方で「高校三年生」が流行ったのは昭和38年。
まさに参加者の青春時代の歌です。
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翌年の東京オリンピックに合わせて、テレビの普及が進んだ頃です。
ブラウン管の向こうで歌う舟木一夫に胸を熱くしていたことでしょう。
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ギターでイントロが流れ始めた瞬間、昭和38年に一気にタイムスリップしたのではないかなと思います。
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これを「回想効果」とよぶのならば素晴らしい威力だと思いました。

「たそがれ歌声音楽会」や「さんすまいる歌声音楽会」であれば、そこから参加者同士のおしゃべりと深掘りが始まるところです。
でもいかんせんお役所仕事ですから時間に制約があります。
しかもカリキュラムがしっかり決まっているので道草を食うわけにもいきません。
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そこで毎回1曲ごとに時代考証や歌の意味などをしっかり調べて臨むことにしました。
回想のきっかけを最低限提供できる状態にしたかったのです。
単純に歌うよりも、中身の深いものになるように思ったからです。

30~40分の歌の時間に対してネットや文献にあたる時間はゆうに10時間は超えることになりました。
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これに加えて歌やギターの練習が加わります。
さいわいカリキュラムのほとんどの歌は知っていたのですが、知っているのと歌えるのとでは全く別物。
古い音源を何度も聴きこみ、怪しいところは譜面にあたるなどします。あっという間に1週間は経ってしまいます。
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調べたことの大半は日の目を見ずに終わってしまいました。
限られた持ち時間の中でたくさんの「情報」の中から選りすぐり、効果的なタイミングで開示する。
そうやって記憶に刺激を与えるように心がけました。
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せっかく勉強したのに日の目にあてることができなかったのは残念です。
でも、いずれ何らかの形で血肉になるのではないかなと思っています。

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3か月に及ぶ「教室」でした。
追われるように過ごした3か月でした(なにせほかのライブ等の準備もあるのでね)

無事勤めあげることができほっとした反面、ちょっと寂しさも残ります。
でもいい勉強になりました。
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お声をかけてくれたKさん。
一緒にタッグを組んでくれた体操専門家のFさん。
そして、毎回休むことなく出席してくれた参加者の皆さん。
心から感謝申し上げます。
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最終回を終えて、帰り支度をしているとある参加者の方にお声をかけていただきました。
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  とっても楽しかったですよ
  古池先生(!)の歌う言葉がよく伝わってくるし
  なによりいい勉強になりました
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最高のお褒めの言葉を頂戴いたしました。

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