【人生賛歌】
.
.
初めて東京に来たのは五十数年前だった。
大学受験のため、生まれて初めて飛行機に乗り、羽田空港に降り立った。
(この受験は失敗に終わり、1年間の自宅浪人を余儀なくされた。それはまた別の機会に)
.
.
モノレールから家々を見ていて、おもわず胸が苦しくなった。
今にも川に崩れ落ち、モノレールに倒れてきそうにびっしりと密集した家々。
そのほとんどが古ぼけた木造2階建てだった。
窓の桟はさびて赤茶けているように見えた。
それぞれの桟には干された布団や洗濯物が風にたなびいていた。
自分が生まれ育った北海道ではおよそ考えられない光景だった。
.
あの窓の中で人々は生活を営んでいるんだな
.
そう思うとなんだか切なくやるせなく、そして人の人生がとても虚しく哀しいものに思えた。
.
オレもいずれ、こんな暮らしをするようになるのかな
.
そんなことを思うともなく思いながら、ふとよぎった歌。
それが「人生賛歌」だった。
昭和39年に始まった森繁久弥が主演した「七人の孫」というテレビドラマの主題歌。
昭和39年というと高度経済成長と東京オリンピックで日本中がわきかえったころだ。
「戦後」は終わり、敗戦からの復興を世界に示す時と言われていた。
一方でそれらを担ってきた人々は「働き蜂」とか「小市民」「中産階級」などと呼ばれていたように記憶している。
.
川にせりだすように立てられた木造2階建てのアパート群は「ウサギ小屋」ですらないと感じた。
.
それでも人々は生きている
それでも人々は日々の暮らしを営んでいる
あの屋根の下で、あの小さな窓の向こうで
嗚呼、人生とは哀しくも、愛おしいものなんだなぁ
.
なんだか泣きたくなった。
19の春のことだった。
| 固定リンク | 1
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
- 松本零士 逝く(2023.02.21)
- 【絵本の歌シリーズ】 「そつえんセブン」(2023.02.10)
- 【おひなさまのいえ】(2023.01.30)
- シャケの飯寿司(いずし)(2023.01.29)
- 赤色エレジー(2023.01.21)
コメント