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2020.09.24

【「日日是好日」 よみがえる記憶】

 

黒木華と樹木希林主演の映画。
静かな、深い感動をおぼえる。
https://www.nichinichimovie.jp/


お茶の世界に足を踏み入れた黒木華演ずる二十歳の娘「典子」が24年の歳月をかけて少しずつお茶の精神世界に気づいていく物語。
日々の些事を五感を持って全身でその刹那を感じ取っていく。
頭でとらえるのではなく、心で感じていく。
ドラマチックではないが、静かに心にしみこんでくる。

典子がお茶の精神に気づき始めたころ、突然父親が亡くなる。
深い悲しみを感じながらお茶の師匠、武田先生(樹木希林)の家を訪ねる。
縁側で散りゆく桜を眺める喪服の典子と武田先生。
すっと武田先生の手が伸び、典子の足をさする。
典子の心が武田先生に寄りそう。

僕の脳裏に古い記憶が電撃のようによみがえった。

幼稚園のばら組。今でいう年長組。
クリスマス会で僕はお芝居の主役をするように言われていた。
すっかりその気になっていたと思う。(ここは記憶が定かではない)
突如、主役をTちゃんに変更すると園長先生に言われた。
幼な心にもその意味はすぐに分かった。
Tちゃんはいいとこのお坊ちゃんだった。

傷ついた。
悔しいのか、悲しいのか、腹がたったのか。
幼い僕には説明ができない思いがこみ上げ、傷ついた。

気がつくと僕はホールのピアノ裏側に身を隠していた。
何時間もじっと体を丸めていた。

幼稚園では大騒ぎの捜索活動が始まっていた。
園内をくまなく探したと思われるが、見つけられることはなかった。ピアノの裏の狭い隙間は盲点だったのだろう。
僕には何度か失踪(?)の前科があったらしい。
蝶々を追いかけて遠くまで行ってしまうというようなことがたびたびあったらしい。
園外にも捜索の手は伸びたらしい。

  意地でも出ていくもんか

そんな気持ちで息をひそめ、身をかたくし、丸くなっていた。

が、やはり見つけられた。

誰もいない教室で、僕は担任の平山先生と向かい合っていた。
平山先生はなにも言わず、じっと僕を見つめている。
静かな時間が教室の中を流れていく。
この静かさは永遠に続くのではないかと思われるほどだった。

平山先生の手が僕の膝にすっと置かれた。
何度も何度もさすりながら僕を見つめる先生。
そして不意に涙ひとしずく、先生の頬を、流れていく。

いじけたような、意固地になったような僕の心が、
すーっと溶けていく。

平山先生の掌の感触、涙、そして流れる静かな時間だけが心にしみこんだ。

《後日譚①》
劇の主役はやはりTちゃんのままだった。
僕は器楽演奏で指揮を任されることになった。
写真はその時のもの。
残念ながらその時の記憶はまったく残っていない。
平山先生が園長先生に直訴したのだろうか、それも知らない。

1954

《後日譚②》
失踪事件の顛末は当然幼稚園から両親に連絡が行ったものと思われる。(僕から親に話すワケがない)
父からはなにも言われなかった。
母も失踪した僕を責めることはなかった。ただ悔しそうに怒っていたのはなんとなくおぼえている。
僕が「世の不条理」に初めて直面した出来事だったように思う。

忘れていたことを突然思い出す。
思い出したことの意味にあれこれ思いを馳せる。
そんなことが最近多くなってきた。
年を重ねたせいであろうか、もともとそういう性分なのか。

最後に「日日是好日」の中で語られた言葉を記す。

  世の中には
  「すぐわかるもの」と、
  「すぐにはわからにもの」の二種類がある。
  すぐにわからないものは、
  長い時間をかけて、
  少しずつ気づいて、
  わかってくる。
  子供のころはまるでわからなかった
  フェリーニの『道』に、
  今の私がとめどなく
  涙を流すことのように。

 

 

《おまけ》

フェリーニの『道』という映画。
僕も子供のころ観たときはまったくわからなかった。
大人になってもう一度観て、少しわかった。
今年になリあらためて見直した。観ながら、知らずに涙が流れていた。
「ああ、こういうことだったのか」なぜかジェルソミーナが遠藤周作の描く森田ミツ(わたしが・棄てた・女)等、様々な登場人物に重なっていった。
考えてみるとジェルソミーナもミツもそこにイエス・キリストの生き方が投影されているためだろう。
「道」、もっと年をとったときに、もう一度観たい映画だ。

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