信州の名工 百瀬恭夫さんとお会いする
松本のディバイザー(HEADWAY)を訪問するため信州に車を走らせた。
Burny BJ-60というギターのメンテナンスをお願いしていた。
メンテナンスは3月には終わっていたのだがコロナの影響で引き渡しが昨日までのびのびになっていた。
BJ-60は1976年(昭和51年)に百瀬恭夫さんの手によって林楽器で作られたギターだ。
ギターを作るにあたって百瀬さんはGibson J-45を分解し、分析と研究を重ねたそうだ。
できあがったBJ-60は硬質で豊かな音量をもつギターとして評価が高かった。
翌1976年、百瀬さんはHEADWAYの立ち上げに加わり、以降マスタービルダーとして活躍されている。
76歳の現在も自らギターを作り続けるとともに、後進の指導をされているとのこと。
僕の手元にBJ-60がやって来てからもう何年になるだろう。
堅牢な作りで見事に鳴ってくれるこのギターが好きだ。
なにしろあこがれ・百瀬恭夫さんによる「最初の一歩」のギターだ。
大野楽器MACSとHEADWAY(ディバイザー)の営業担当T氏から信じられない提案を承けたのは今年の正月。
BJ-60の点検を百瀬さんご自身にしていただくとともに、HEADWAY飛鳥工場の見学、加えて百瀬さんと面談させていただけるという提案だ。
あこがれの百瀬恭夫さんにギターを看ていただけ、しかもご本人にお会いできる。
夢のような話に舞い上がった。
信州・松本のディバイザー HEADWAY飛鳥工場の中はいたるところに木材や機械、半製品であふれかえっていた。そしてたくさんの職人たちがうごめきあい、担当パーツの製作に精を出していた。
大昔の印刷工場(こうば)と同じ匂いが充満している。木の香り、溶剤の匂い。そして何より職人たちの熱気。
とても懐かしい気持ちになる。
百瀬さんとあいさつを交わす。
もの静かで柔和な感じの方だった。
でもその目、その手からは長年ギター製作ひとすじで生きてこられた「ザ・職人」のオーラが醸し出されている。
とても懐かしい感じがした。
僕の印刷の師匠も無口だが、うちに強い意志を秘めた「ザ・職人」だった。(僕自身は残念ながら職人崩れで終わってしまったような気がするが)
BJ-60をいい状態で使い込んでいただき、
ありがとうございます
このギターは私が林楽器時代の最後に作った1本です
百瀬さんは笑みを浮かべながらそう言った。
翌1977年(昭和52年)、百瀬さんはHEADWAYの立ち上げに参加し、以降四十余年マスタービルダーを務めてこられた。
「百瀬イズム」とよばれるものが林楽器製Burny BJ-60から現在のHEADWAYにいたるまで貫かれている。
BJ-60はその「最初の一歩」なのだろう。
作られて44年経ったBJ-60ですが、
どこか不具合はあったでしょうか?
フレットを打ち直してありますが、まったくいい状態が保たれてますね
1弦と2弦がサドルの上で若干遊ぶ感じはありますね
でもピン穴にちょっと切り込み入れれば改善すると思います
古池さんのご意向を伺ってから切れ込みを入れようと思ってました
ぜひともお願いいたします!
百瀬さんは手製のカッターを手にする。
それまでの柔和な笑顔が瞬時に鋭い眼光に変わる。
切れ込みを入れる箇所をしばしにらんだかと思うと、一気に刃を入れる。
1弦、2弦と刃を入れ、さらに3弦にまで及ぶ。バランスをとっているんだろう。
時間にして10分に充たない作業。
これで良くなったと思います
弾いてみてください
正直大きな変化を感じることはできなかったが、とても心地良い引き心地だった。
それほどに微妙な調整。
これまでライブ本番で力が入ると1~2弦に微妙なビビリを感じることがあった。
それが解消するということなのだろう。
工場(こうば)から展示室に場所を変えた。
広いスペース、高い天井。試奏するにはうってつけの場所だ。
BJ-60をいろんな奏法や強弱を変えて弾いてみる。
心地いいい。
硬質な豊かな音量で鳴ってくれる。
すっかり満足した。
営業T氏が数ある展示ギターの中から1本を紹介してくれた。
これは百瀬がこれまで作った記念碑的なギターです
非売品ですが試しに弾いてみてください
BJ-60とは性格の違う柔らかく深い音だった。
BJ-60がGibson J-45を研究して作られたものならば、このギターはもしかしたらMartinを分解して研究したという1本なのかもしれない。
百瀬さんが未完成でヘッドロゴも入っていないギターを2本持ってきた。
これは10日前に作ったギターです
これまでとは違った試みで作りました
仕様はまったく同じ2本ですが、一部材質を変えてあります
しばらく寝かして状態の変化を見ているところなんですが
ちょっと弾いてみてください
どちらも心地のいい音色だ。
でも音の表情がそれぞれ違う。
2本をとっかえひっかえ何度もくりかえし試奏してみた。
僕はつど感じたことをブツブツつぶやきながら弾き続ける。
百瀬さんは多くは語らず、その音にじっと耳をかたむける。
小一時間もそんなことをくり返した。
甲乙つけがたい音色ですね
どちらもまずとても弾きやすい
もし僕が使うとしたら、
片方は音色が落ち着いているんで
一人で音の余韻を楽しみながら弾くか、
5~6人の少人数の方にゆったり聴いていただく感じです。
もう1本は音の立ち上がりがとても早く、華やかな音色。
10人~20人くらいの方々に聴いていただくという感じ
それも生音で聴いていただくのがベストと感じます
そんな感想を伝える。
私は自分ではギターを弾きません
だから弾かれる方の感想がとても参考になります。
ありがとうございます
どこまでも謙虚な百瀬さんだ。
工場見学も含めて2時間ほどをディバイザー HEADWAY飛鳥工場で過ごさせてもらった。
得がたいひとときだった。
僕にとって一生の宝になるだろう。
深い満足と幸せを感じながら帰路についた。
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