ドラマは1981年10月に半年間放映され、その後単発で特別編集のドラマが放映されました。
2002年の『遺言』で(一応)幕を閉じました。
倉本聰さんはその後の展開も構想を練っていたそうですが、諸般の事情から実現していません。
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僕が特に好きなのは「’87 初恋」。
主人公・黒板五郎(田中邦衛)の長男・純(吉岡秀隆)と同級生の大里れいの初恋を縦糸に、純の巣立ちへとつながっていく。
つまり五郎と純の親離れ、子離れが横糸になっています。
「親離れ・子離れ」は家族の歴史の中で、もしかしたら最もドラスティックなものかもしれません。
自立せんと親の庇護をはなれていく子。見方を変えると親を捨てその元を飛び立たんとする行為ともいえます。
まして北海道のへそ・富良野から海を越えて内地へと旅立つことは1981年当時は今よりはるかに勇気が必要なことだったと思われます。
純の心情は千々に揺れていたものと思われます。
一方で五郎もまた複雑な思いと葛藤に揺れていたと思われます。
半ば自分(そして純を育ててきた日々)を裏切り、東京に行かんとする純。
気持ちの上では受け入れがたい思いがあったはずです。
しかし胸に手を置くと自分もまた若いころに親を捨て、富良野を捨てて東京に出たワケで。。。
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ドラマの最後のシーン。
東京に向かう貨物トラック。おそらく苫小牧フェリーで仙台に出て、そこから陸路東京に向かうのでしょう。
五郎は運ちゃんに頼み、純を助手席に乗せてもらいます。
出面仕事でやっとこさえた金を旅費として運ちゃんに渡します。
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走る車内
ウォークマンをイヤホンで聞く純。
流れる尾崎豊「I Love You」
フラッシュバック れいちゃんとの記憶
窓の外は続く雪道
イヤホンが突然抜かれる。
純: 「ハ?」
運転手を見る。
純: 「すみません、きこえませんでした」
運転手、フロントグラスの前に置かれた封筒をあごで指す。
純: 「ハ?」
運転手:「しまっとけ」
純: 「・・・何ですか」
運転手:「金だ。いらんというのにおやじが置いてった。
しまっとけ」
純: 「あ、いやそれは」
運転手:「いいから、お前が記念にとっとけ」
純: 「いえ、アノ」
運転手:「抜いてみな。ピン札に泥がついている。
お前のおやじの手についてた泥だろう」
純: ・・・
運転手:「オラは受け取れん。お前の宝にしろ。
貴重なピン札だ。一生とっとけ」
純: ・・・
恐る恐る封筒を取り、中からソッと札を抜き出す。
二枚のピン札。
ま新しい泥がついている。
純の顔。
音楽・・・テーマ曲、静かに入る。B・G。
純の目からドッと涙が吹き出す。
音楽・・・

《追補》
1981年。
僕は北海道から出てきてからの数年間を熱病に冒されたかのように生きてきた。
放蕩の日々を総括、清算しつつ自分なりの生き方を手探りしていた。
札幌に住む父から何度かに分けてカセットテープが送られてきた。録音されていたのは「北の国から」。おそらくテレビを見ながらその音声を録音したものだろう。テープから流れる音を息をつめ見入っている気配が感じられる。時折鼻をすする音も混ざっている。
二十歳のころ僕は産まれ育った北海道を棄て、友を棄て、家族を棄て内地に出てきた。(厳密には結果として棄てることになったと言うべきか)
子が親を棄てたつもりでも、親は子を棄てない。
父がカセットを送り続けてくれたワケは知らない。
その頃僕は産まれたばかりの長男とどう付き合い、どう育てるか迷っていた。
女は懐妊した瞬間から母親になれるが、男は生まれ出てその顔を見てからやっと父親に育っていくものだ。
若き日の五郎が幼い純と蛍を連れ、富良野に戻る。そこですべてを己が手で切り開いていく。
五郎の生き方は僕にとって少なからず衝撃だった。
絵のない音だけの世界で僕は空想を膨らませていた。
シナリオを読むとその時空想した世界と実際の映像の世界がリンクして広がっていく。
父の送ってくれたテープは何度かの引っ越しをするうちに紛失してしまったのが悔やまれる。
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