「想苑」
「想苑」
函館公園のそば、函館八幡宮に続く裏参道沿いにひっそりたたずむ喫茶店。
先代が店を開いて60年になるジャズの聴ける老舗だ。
父は自宅を改装して喫茶店にするのが夢だった。
僕が中学生の頃、そんな父に「想苑」と、さらに先にあった「山小屋」という喫茶店に何度も連れてこられた。
共に音楽をコンセプトにした喫茶店。
父もクラシック音楽の流れる落ち着いた大人の店を持ちたかったようだ。
夢はかなえられることなく父はこの世を去り、生家も数年前に人手に渡った。
僕は函館に帰る都度、時間があればこの店を訪れ、小一時間ほどジャズに身をゆだねている。
自宅では決して出すことのできない大きな音。大音量であっても耳にさわらず、体に響いてくる。
その音は生々しくまるで目の前で演奏をしているようだ。
正体はJBLの古いスピーカーと店の作りにあるようだ。
スピーカーユニットは大きなフルレンジ小細工なしの一発出し。ツィーターやスコーカー、ウーハーなどに分割していないのがいい。耳に障る音は音を帯域毎に分割した結果、バランスが悪くなってしまうことが原因のように思う。
特にツィーターの高音域は耳に障る。ウーハーの過剰にブーストされた低音は不自然に感じる。
フルレンジスピーカーから出る音は大きなエンクロージャー(箱)の中のホーンを通り自然に増幅されてラッパのように開いた口から絞り出される。
まるで蓄音機のラッパの前で聴くSPレコードのような生々しさだ。
店内は木の床。スピーカーの先には陶製の大きな壺が置かれている。
多分この壺が音を適度に拡散しているように思う。
今回はパット・メセニーのギターソロアルバム、キャノンボール・アダレイとマイルス・デービスらによるアルバム「Something Else」、チック・コリアのピアノソロを聴いた。
心地いいったらありゃしない。
現在「想苑」は娘さん夫婦が切り盛りしている。
娘さんは小学校、中学校の8つ上の先輩。(いとこの同級生)
ご主人は函館東高校の先輩。
60年の「想苑」の歴史をずっと更新してほしいものだ。
函館に帰る度にまた寄らせてもらえるようにね。
数少ない子供の頃の思い出につながるお店だから。
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