「本のエンドロール」
共同印刷時代親しくしていた営業部長O氏に紹介された「本のエンドロール」(講談社・刊)。
深い感動を持って読み終えた。
自分の37年の印刷マンとしての歩みがそこにあった。
生粋の印刷職人の師匠に『技能者』として育てられ、やがて「技術者」に育っていく
過程。
そこには職人に育てられたにも関わらず職人には成りきれなかった葛藤がある。時代が勘と経験と度胸の職人を必要としなくなっていた。誰もが間違いなく平均的で安定した印刷ができることを求められた。そのために作業標準が定められ、QC活動が重視された。
その必要性を認め、推進役を担いつつも、職人であるM師匠に対する憧れをくすぶらせていた。
技術担当の修行中、TK社製本に弟子入りをするチャンスに恵まれ、製本のなんたるかをS工場長に仕込まれた。
やがてTK社製本のS工場長もM師匠も去っていく。
僕は残された先輩諸氏と共に仕事を回すほどには力をつけていた。
やがて人事異動で前行程の製版(プリプレス)と直接関わりを持つ設計業務に携わることになった。印刷と製本しか知らぬ男が別の世界を知るようになる。同時に営業担当とのやりとりが増え、その延長でいくつかの得意先やデザイナーとも関わりを持つようになる。
印刷という一工程にとどまらず『本を作る』という視点を植えつけられた時期だった。
印刷マンとしては絶頂の頃だったかもしれない。
やがて状況は少しずつ変わり始める。
出版物が本という媒体から電子書籍に舵を切りはじめたのだ。
それは我々印刷技術者にとってターニングポイントになりかねない流れだった。自分にとっては三十余年に過ぎないが、我々に流れる100年の歴史が途切れることを意味していた。
『本のエンドロール』には一人の若手営業マンを軸に印刷の各工程で歯をくいしばってがんばる人たちが描かれている。
同時に印刷の歩んできた歴史を感じさせてくれる。歴史の変遷のなかで変わっていく印刷人の心の動きが描かれている。
帯に書かれたキャッチが僕の心をえぐる。
『奥付けに載らない裏方たちの物語』
『斜陽産業と言われようとも、この世に本があるかぎり、彼らは走り続ける。印刷機は動き続ける。』
印刷業界を離れて久しい僕にこの本を教えてくれたO氏に心から感謝します。胸が熱くなりました。
ちなみにO氏は営業で僕は現場。
それぞれの立場から切磋琢磨した者同士。
価値観を共有する『同志』と勝手に思っています。
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