母の陣中見舞い
函館・旭ヶ丘の家。
窓の外は雪景色。うらはらに施設内は暖房が効き暖かい。
弾丸帰郷だった今回、短い滞在時間に合わせるかのように母は目を覚ましていた。
このところ眠る時間が圧倒的に増え、ひとたび眠ると2~3日は目覚めない。
旭ヶ丘の家ではそんな母を「眠り姫」とよんでいる。
眠ること自体は悪くはないが栄養の補給が追いつかない。
せめて母の好きな食べ物をしこたま持参した。
イチゴにみかん、アイスクリームにプリン。そしてセイコマートのお握り 。
ガツガツとむさぼりペロリとたいらげた。
たまげた。食欲旺盛な母をみるのは久しぶりだった。
.
食事をする母を見ながら、僕は終始ギターをつま弾いていた。
母の好きなメロディを次々と引き続ける。
北の国から組曲、グレゴリアン聖歌やカトリック聖歌、童謡唱歌、映画音楽、フォークソングetc.etc..
途切れることなく弾き続ける。
食べ終えた母はじっと聴いている。
.
ギターの音だけが静かに室内を満たす。
言葉はない。
いや、言葉は不要と感じる。
流れる沈黙の時を共に過ごすことがなによりも雄弁な会話と感じる。
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ふと気がつくと、口を開けたまま母は軽い眠りに落ちていた。
多分心地よかったんだろう。 .
僕はそのまま弾き続ける。
そして思い出していた。
.
札幌の月寒教会の中にあった納骨堂に眠る父。
墓参りのたびに僕は同じようにギターを弾き、父と会話をしていた。
.
母に残された時間がどれほどあるのかはしらない。
おそらくこれからはますます言葉は不要になるだろう。
必要なことはただ寄り添うことのみ。
静かに手を握ることであり、静かにギターをつま弾くこと。
こういうことが寄り添い、心を通わせることなんだろう。
.
そんな気がする。
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