清津峡 2015年 春の陣 変わり果てた景色
第2東名高速の予備工事が始まった。
清津峡キャンプ場への降り口に立ち、あまりの変貌ぶりに息をのむ。
山の斜面にやぐらが組まれ、その上にそびえ立つ重機。
ゴールデンウィークのため作業はしてはいなかった。
でも普段の道路工事の様子は容易に想像できる。
これから高速本道のトンネルを掘るための予備道路が作られ、5年後には第2東名のトンネルは完成する予定とか。
降り口からは鉄パイプで仮設階段が組まれ谷に向かってのびている。
かなりの急傾斜で、幅も人一人が通れる程度しかない。
不安定な山の斜面に急設された階段ゆえ、一段降りるたびにきしんだ音をたてながら揺れる。
荷物、ましてギターを持って階段を下りていくことに不安を感じながら数十メートルを降り立った。
見上げる。
あまりの無残な姿に声も出ない。
山の斜面に群生していた木々はすっかり切り刈り取られ、丸裸になっていた。
なにもここまでしなくたって…。
怒りともあきらめともつかぬイヤぁな気持ちになる。
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「緑のタイムトンネル」
僕たちはここをそう呼んでいた。
木々が群生し、鬱蒼と生い茂った山の斜面につけられた踏み跡が谷底のキャンプ場まで続いていた。
踏み跡道はまるでトンネルのようだった。
僕たちは日常のあれこれを背負いながらこの「緑のタイムトンネル」を下った。
うさや憂いや煩わしさをひとつひとつぬぐいさり、脱ぎ捨てながらキャンプ場に降り立った。
ガスも電気も何もない清津峡キャンプ場で数日を過ごす。
ゆったり流れる時間に身をゆだねつつ。
戻り道、再び「緑のタイムトンネル」を喘ぎながら登る。
一歩登るたびに、日常の暮らしへの新たな覚悟を刻みこむ。
「緑のタイムトンネル」は日常と非日常をつなぐ、大切な時間・空間だった。
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「緑のタイムトンネル」は数年前のたびかさなる大雨と台風で一度は失われた。
キャンプ場管理人・アキアラッチの(そして清津峡ファンの切なる願いと応援で)気の遠くなるような復旧作業が続けられ、再び道はつながった。
「緑のタイムトンネル」は失われたが、木々の成長とともにいずれは新たなトンネルは徐々にできていくはずだった。
僕はトンネルが再びかたちづくられるまで、体力、気力を維持しながら清津峡に通い続ける覚悟を固めていた。
第2東名の工事が近いことは知っていたが、工事が終われば「タイムトンネル」は10年先くらいには復活するだろうと願っていた。
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鉄パイプの階段を下り切り、ふりかえり、見上げる。
丸裸にされた斜面とその上にそびえるやぐらとクレーン車。
まるで旧約聖書の中にある「バベルの塔」のように思えてならなかった。
人は己の力を過信・盲信し、神を超えようと巨大な「バベルの塔」の建設を始める。
神は空高く伸びていく塔に雨、風、雷をもってその全てを破壊しつくした。
この話が僕にはとても暗示的に思えてならない。
再び長雨や台風が直撃した時、丸裸にされた山の斜面は持ちこたえることができるのだろうか。
数年前の土砂崩れも破壊的だったが、生い茂る木々のおかげで土砂崩れはキャンプ場の上でかろうじて止まった。
丸裸にされた斜面が崩れた時どんなことになるのか。
杞憂で終わることを祈るばかりだ。
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僕が清津峡に通える残された時間。
それはけっして長くはない。
第2東名の完成は5年後だそうだ。
高速道路は山の中のトンネルを走るそうだが、今建設が始まったトンネル掘りの工事用道路はそのまま放置されるだろう。
樹木が育つのに10年。
「緑のタイムトンネル」が部分的せよ復活するのにさらに10年。
合わせて20年!
その頃僕は80歳を超えている。
はたして生きているかどうかもあやしい。
よしんば生きていたとして山道を昇り降りする体力、筋力、気力が残っているかどうか。
暗澹たる気分になる。
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それでも清津峡キャンプ場は健在。
それが救い。
清津峡キャンプ場はこの30年の僕の足跡の中で欠くことのできぬ大切なもだった。そのことを今ほど強く感じたことはなかった。
60歳を過ぎた今、1回1回の清津峡通いがとてもとても貴重なものに思える。
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コメント
古池様
土日で行ってきました。
正直、がく然としました。
それでも、やっぱり素晴らしい清津峡キャンプ場‼
20年後は、私も76。今からその日のために、体力と気力を充実させようじゃありませんか~‼
釣りの親子の親より
投稿: 金本伸一 | 2015.06.08 20:14
金本さん。おひさしぶりです。
残念な状況ですけれど、体の続く限り僕も通おうと思います。
体力、気力の充実なくしてありえないことと思います。
また清津峡でお会いしましょう!
投稿: Martin古池 | 2015.06.16 22:14