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2015.01.12

Sさん

北風吹きぬける広場の陽だまりの中。
見覚えるある老人がひとり腰を下ろしている。
忘れようとしても忘れられない人、Sさん。

もう一昔も前になる。
毎土曜の夜、新越谷駅でやっていた「街角ライブ」。
ごくごく初期のころから毎回欠かさず聴きに来てくれたSさん。


少し離れたところから歌う僕を凝視していた。
レポート用紙に全ての歌のタイトルと感想をびっちり書き込む。
ライブが跳ねた後それを僕に手渡し、ご自分の感想や意見を言い残し、街灯りの中に消えていく。

なんとか音楽研究所をやっているといっていた。
白髪交じりの長髪で当時すでに60歳を超えていたように思う。
Sさんの指摘は多少強引ではあるが、的を得ていた。
僕にとってはありがたくも多少煙たい存在であった。

最初は批判的な感想が多かった。
僕はSさんに認めてもらおうとあれこれ練習し、選曲も練り上げて臨むようになった。
1年も続けるうちにSさんは肯定的な感想を述べてくれるようになってきた。

「街角ライブ」は最初は駅コンコースの中で多少浮いていた。
人々は避けるように通り過ぎ、せいぜい遠巻きに眺めていた。
それも同じころから徐々に市民権を得るようになり、聴いてくださる方々増えていった。
Sさんは相変わらず離れたところからそんな様子を満足げに眺めていた。

数年の月日が流れた。
新越谷駅での演奏は全面的に禁止され、僕は歌う場を市場やお好み焼き屋さんに移した。

Sさんとはそれっきりになっていた。

久しぶりに見るSさんは当時着ていたサファリジャケットの襟を立て、木漏れ日の中で背中を丸めていた。
薄汚れたジャケット、ひびの入った眼鏡…。

通り過ぎた僕には気がつかず地面を見つめている。
声をかけようとした。
それを押しとどめる気持ちが勝った。
声をかける勇気が僕にはなかった。

.

.

これまで長いこと歌い続けてくることができた。
その時々にたくさんのご縁があり、たくさんの恩人がいる。
そういう人たちの支えがなければ、今に至るまで歌い続けることはできなかったんじゃないか。
時々そう思う。

.

ライブハウスでの演奏を辞め、自分のスタイルを暗中模索しながら迷いに迷いながら試みていた「街角ライブ」時代。
Sさんは間違いなくあの時代の僕にとっての恩人だろう。

通り過ぎ、その背中にそっと頭を下げた。

Photo_2

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