1日だけの印刷人に戻る ~いきさつ編~
25年来おつきあいのあったTB印刷の社長からオファーがあったのは今年の正月だった。
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古池さん
ウチの連中に印刷品質について講義してもらえませんか
品質保証や品質管理のノウハウを形あるものとして植えつけたいんです
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少々とまどい、一度は固辞した。
なにしろ印刷業界を離れてまもなく2年になろうとしている。
そんな自分に講義をする資格などあろうはずがないと思えたからだ。
そんな自分を社長は口説いた。
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古池さんがKP印刷でやってきたこと、指導してきたこと、そのやり方を
私は信頼しているんです
それを眠らせてしまうにはあまりにしのびない
財産として私たちに残してほしいんです
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いささか(いやたぶんに)かいかぶりの感があるが、この一言に心をゆさぶられた。
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会社の事情と自分の事情(オモワク?)が重なり早期退職をしたのは57歳だった。
55歳を過ぎたあたりから印刷業界に対する恩返しや次代へのバトンタッチを意識していた。
急な退職だったためそんな思いは思いにとどまったまま去った。
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考えてみれば・・・
オレは何ひとつ恩返しができぬまま去ってしまったな
せっかくいただいたチャンスだ
恩の一端でも返せるならば、
それもまたヨシだな
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今思うと、自分は恵まれた環境の中で多くの経験を積ませてもらった。
一子相伝ではないが、
師匠(Mizuiのオヤジ)にかわいがられ(いじめられ)
印刷人としての心構えと基礎をたたき込まれた。それを土台に、
印刷にとどまらず前工程(製版)や後工程(製本)とも関わりを深く持つことができた。くわえて営業担当やいくつかの得意先やデザイナーとも関わりを持つことができた。
そして何よりも技術担当として数多くの印刷協力会社と深い関わりを築くことができた。
(TB印刷もそんな中のひとつ)
大手印刷会社の中でこれほど広範囲に、しかも横断的に関わりを持てたなんて、
一介の印刷マンとしては恵まれていたとしか言いようがない。
得難い体験を数多くさせてもらった。
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「入稿から出荷まで」
印刷物が製品として仕上がるまでの全工程を流れの中でとらえ、
その流れの中で印刷を位置づけること。
これはけっこう難しいものだ。
ほとんどの印刷職人やオペレータ(技能者)は印刷のことしか視界にはいらないのが実情だ。
そのため客先に求められる品質と、みずから作りこむ品質との間にズレが生じる。
その結果、品質事故やクレームにつながることのなんと多いことか。
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全体の流れの中で印刷を位置づける。
そこから自然に見えてくる品質の意味を浮きぼりにする。
その上でTB印刷が日常的に発生させ、
一番困っている品質事故の背後にひそむものはなにかを考える。.
まずはこの辺から手を付けることにした。
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T社長の言葉が印象に残っている。
優れた技能を持つ人間を技術者とよぶわけじゃないと思うんです
技能はいわば「技」
「技」を持つ人間はウチにもいます「技」を言葉に変えて伝えることができる人
伝えるだけではなく理解させることができる人
それが「技術者」なんじゃないでしょうか広く、深い知識や経験があり
修羅場を潜り抜けてきた判断力と胆力が備わっている
そんなものに裏打ちされてなきゃならない一人でいいから、ウチに「技術者」と呼べる人間が育ってほしい
それが私の願いなんです
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