【函館日記 2012夏】 捨てられないもの
今回の帰省の最大の目的、それは「納戸の整理」でした。
納戸(物置)は間口も奥行も1軒ほど、高さは2メートルほどのスペース。
母がここに暮らしてきた10年分のあれやこれやが隙間なく押し込まれワヤな(大変な)状態。
物を置いて、置いて、詰め込んで(--;) どうもこうもならないんだから!
松本零士の昔の漫画に「男おいどん」というのがありました。
押入れを開けるとパンツの山とサルマタケが崩れおちてくるってやつ。
さすがにあそこまではいかないけど近い状態でした。
言い替えれば整理棚だらけで整理できない状態です。
車椅子生活になった一昨年来、整理できない状態は加速されました。
ヘルパーさんたちも手がつけられなくなっていました。
投げよう、投げよう、どんどん投げよう!
(投げる=捨てる)
整理の大原則はまずは不要なものを捨てるところから始まります。
ところがこれが難しい!
膨大な量の荷の中から何が必要で何が不要なのかを選別。
これは母との闘いになることが予想されていました。
実は10年前、札幌の父と暮らしていたマンションからこちらに移動する際にも同じ闘いが繰り広げられたのです。
4部屋あったマンションにあった大量の荷物を1部屋に合わせてシェイプアップする必要がありました。
母もそれは充分に分かっていながらどうしても捨てられず、「死闘」が繰り広げられたのでした。
結果的にホームのスペースの許容量をはるかに超える荷物を持ち込み、それが納戸に押し込まれたのでした。
この10年の間に少しずつ整理はしたようですが、新しい荷も少しずつ増え・・・。
焦点になったのは大量のシーツ・タオル類と本でした。
納戸にはタオルやシーツ、布団カバーが詰め込まれた整理棚の引き出しが3つも4つも。
10年間使った痕跡のないものががっぱりあるんで、古いものは捨てるように提案するんですがねぇ。
これはいいもんだから捨てられない
使いやすいから捨てられない
まだ使えるから捨てられない
1枚1枚にそんなやり取りをくりかえします。
結局、減らせたのは3分の1程度。
たくさんのタオル類に包まれているという安心感というのが母にはあるのかもしれません。
それは自分が近い将来、完全に動けなくなった時、それが必要になるだろうという思いだったかもしれません。
次に本の選別。
これまたタオル以上の抵抗が予想されました。
4段の本棚にびっちり詰まった本、本、本・・・!
これは読書家だった父が晩年読んでいた本や、古くは昭和30年代からのものまで多岐にわたっています。
ウルトラCの決め技がありました。
ホームの協力を得て、函館中央図書館に寄贈することにしていたのです。
つまり‘投げる’(捨てる)わけではない。
手元にはないけれど図書館で公的に保管してもらい、しかも多くの人にも読んでもらえる。
これは母も納得してくれました。
しかし長年印刷マンをやってきた僕も本を捨てることには大きな抵抗感があります。
なにしろほとんどの本はすでに絶版になっています。
一度捨てるともう二度と手に入らぬものばかり。
それ以上に1冊ごとに想い出も詰まってるだろうし、自身の足跡でもあるわけです。
どうしても手元に置いておきたい本と限定しながら、結果的にこれも3分の1程度しか減らせませんでした。
納戸全体でみると整理できた荷物は5分の1程度。
後は収納のレイアウトを変えて日常的に使えるようにするのみです。
ここは腕のみせどころ。
整理棚の向きやレイアウトを変えます。
今後使うことはないもの(母の趣味である書道は車いすではもう決してできない)は奥の方にまとめ、
本棚も納戸のサイドスペースにまとめました。
残ったスペースに日常必要なものを取り出しやすくまとめた結果、実にいいあんばいに。
まる2日間かけ、なんとか形にできました。
納戸の3分の1が「想い出の棚」、残りが「生活の棚」というところでしょうか。
捨てられないものには二つあるんだなと思いました。
ひとつは今に連なる自分の足跡。
これを無造作に捨てることは自分の人生をどぶに捨てられる思いになります。
もう一つは今を暮らすうえでの不安感を払しょくするもの。
たとえ明日体が動かなくなり、たとえばたれ流し状態になったとしても大量のシーツやタオルがあれば何とかなる。
そんな思いだったかもしれません。
おそらく誰しも多かれ少なかれ「想い出の棚」と「生活の棚」があるんじゃないかなと思います。
それは他人には決して捨てられないものなんでしょうね。
1冊ずつ本を選びながら、タオルをしまいながらそんなことを考えていました。
そう思うと母との闘いの2日間も意味あることだと思えたのでした。
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