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2012.03.11

日記  あの日

14:46 
突然、横に大きくゆれだす。
同僚たちは叫びながら机の下にもぐりこむ。
瞬間、中学生の時体験した十勝沖地震のことが脳裏をよぎり、出入り口まで急ぐ。
  あの時は末広町の同級生の家が真ん中から裂けた。
  道路には亀裂が入った。
  3階建ての函館大学の1階が押しつぶされた。

出入り口から外に出ようと地面を見ると建屋と道路の境目に亀裂が入りそれぞれ左右逆方向に揺れている。
危険を感じる。
上を見上げると5階建ての建屋を這うように設置された配管パイプが音をたてている。
建屋がつぶれるのが先か、配管が落ちるのが先か。
コーポレートマークを大書きした金属の巨大な壁が屋上の上でぶるぶる波打っている。
いつでも飛び出せるように身構えながら揺れがおさまるのをまつ。


15:30
社内放送で全社員の避難を促し始める。
場所は播磨坂の桜並木。
広く、長い坂は多くの人で埋めつくされている。
くりかえしやってくる余震だが、皆つとめて冷静に事態をうかがっている。

この日退職の挨拶をしに得意先SB社を訪問する約束だった。
先方の様子をうかがうとともに、延期の依頼をしなければなるまい。
そう思い、何度も電話をするがつながらぬ。


17:00
避難命令は解除され、社にもどる。
ただちの退社を促す放送。
同僚たちが帰るのを見届け、18:00に退社。


少し歩きはじめるが手のカバンが邪魔になる。
白山のオリンピックに立ち寄りザックを買う。
自転車売り場は人の列が延々とつながっている。


19:00
上野の山を裏道伝いに抜け、日光街道をめざす。
途中三ノ輪のAb印刷に立ち寄る。若い工場長は教え子だ。
他のオペレータを帰し、ひとりで印刷機を回している。

  なんとしてもこいつだけは上げとかなきゃなんないんですよ
  あしたの朝一が、引き取りなんで。

  ばかやろ、明日なんかトラック走らねぇべ!
  しゃあねぇな、俺も手伝ったるよ


20:30
Ab印刷を出て再び歩きはじめる。
日光街道は車も人も自転車も身動きとれぬほど込み合っている。
どこまでものろのろと続く長蛇の列。
急いでもしょうがないと腹をくくり、その動きに身をまかせる。


23:00
竹ノ塚を抜けようやっと埼玉県に入る。
人の群れは少しずつだが隙間ができはじめる。
急に冷え込んでくる。
空腹になるがコンビニは店を閉めている。あいている店も買い物客でごった返している。
あきらめて列からはずれひと休み。
家族に電話をするもののいまだにつながらない。


24:00
草加を抜ける。
人はずいぶん少なくなるが車道はあいかわらず渋滞が続く。
旧日光街道に面した自治会館では急設休憩所が設けられている。ありがたい。
水を分けてもらい一服する。煙草がうまい。


1:00
やっと松原団地の松並木。土の道が疲れた足にやさしい。
人はばらけ、数えるほどになる。
ベンチで一服していると、見知らぬおじさんに声をかけられる。

  すいません。煙草を1本分けてもらえませんか。

疲れはてた表情でうまそうに煙草を吸うおじさんと話す。
袖振り合うも多生の縁というが、みょうな一体感を感じる。


1:30
蒲生に入る。
あと一息。
ラーメン屋「まんぷく」が店を開けている。
店内は客がひしめいている。
急に腹が減り、吸い込まれるように店に入る。
なじみの店主に広東麺を頼む。
とろみのある熱い麺が五臓六腑にしみわたる。生き返った心地だ。

家に電話。
やっとつながり、全員の無事を確認する。
長男は足場の上にいる時に地震がきたという。やばかった。

2:00
ようやっと家にたどり着く。
「まんぷく」からの1キロが途方もなく長く感じられた。

テレビに目をやる。
とんでもないことになっている。

小石川から越谷にたどり着くので精いっぱいだった。
こんなことになってるなんてちっとも知らなかった。

あまりの状態に発する言葉もない・・・

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昨年の今日のできごと。
メモ帳に記録した走り書き。
1年たって昨夜読み返した。
そうしなければならないという思いがあった。

あの晩歩いた道を今日ふたたび歩いた。
あの晩買ったザックを背負い、あの時履いてた靴で。
そうしなければならないという思いがあった。

何も考えずに歩こうと思った。
心にいろんな思いが浮かんでは消え、消えては浮かんだ。
思考を拒否し、想念に身をまかせた。

14:00過ぎ
草加駅前のSMCK野外コンサートにいた。
今回は出番はなかったがなんとはなしに足が向いた。

14:46
主催者がオーディエンスや道行く人たちに黙祷を呼びかけた。
1分間の黙祷。
草加駅前の雑踏が静寂に変わる。
長い1分だった。
重い1分だった。


あの日のこと、そして今日のこと。
決して忘れるまい。

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