1枚の年賀状
郵便受けに入っていた1枚の年賀状。
中央にやや大きめの家族だんらんの写真。
こたつを囲んで「祖父」「祖母」「外祖父」「父」「母」「妹」二人が身を寄せ合うようにお茶を飲んでいる。
写真中央には 絆! の朱文字。
白抜き文字で「みんな元気です」
この写真を囲むように小さなモノクロ写真が数枚配されている。
漁船の写真、漁具店の店先。それよりさらに古い漁網店の店先。
年賀はがきの最下段に小さな字で書かれたあいさつ文。
「昨年3月の津波によって、いわき市四倉町の当漁具店は全壊いたしました。しかしながら家族は全員無事。皆様のお力添えによって、再び元のように穏やかな暮らしを取り戻しつつあります」
昨年まで勤めていたKP印刷の若い営業マンからの年賀状だ。
当時入社2年目の若者で僕に妙になついていた。
僕も彼を息子のようにかわいがっていた(鍛えるというニュアンスで)
僕の退職が決まった3月。
あの震災が起こった。
いわき市にある彼の実家は津波にのみこまれた。
震災からちょうど2週間後、神田の「欧風屋」でライブをやった。
「今日まで。。。そして明日から」というテーマだった。
いわばキックオフ宣言のライブだった。
欧風屋はたくさんのお客さんでいっぱいになった。
得意先や会社の人たちも来てくれた。
その中に彼はいた。
終始にこにこしながら聴いてくれた。
ライブを終え、一人一人と握手を交わしながら見送った。
最後に彼と握手を交わした。
それまでの笑顔が急に曇った。
こらえてきたものが流れ出した。堰を切ったかのように。
音も立てずに泣く彼を僕は抱きしめ、無言で背中をたたいていた。
あれから10ヵ月。
届いた彼の年賀状。
印刷された写真の1枚1枚を食い入るように眺める。
失われたものの大きさ、残されたものの大切さ。
写真の片隅に家族の誰かが書いたと思われる毛筆があった。
望 春
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