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2011.12.16

流しのじいさん

ひとつの出会いがあった。

「憩いのデーサービス・越谷」での慰問演奏を終え、帰宅の途上だった。


この日僕は歩いて会場を往復した。
車を修理に出していたこともあるが、市内での演奏なんだから若い頃を思い出して自分の体ひとつで移動しようと思った。
車など持てない時代はいつも歩きでライブ会場に向かっていた。
その日の演奏をイメージしながら歩いていた。

時にはそんな原点に帰るのも悪くはないだろうと思ったんだ。
市内とはいえ片道1時間、およそ4キロの道のり。
背中にギターを背負い、ガラガラ(台車のこと)に12弦ギターをくくりつけ引っぱった。


日も暮れ始め少々疲れたんで、公園でひと休みしていた。
ベンチに腰を下ろし一服してると、どこからともなくかすかなギターの音色が流れてくる。
「湯の街エレジー」だ。
音のする方向に目をやり眺めると誰かが弾いている。
しばらく耳を凝らして聴いていた。

特別うまいというわけじゃないが、ずいぶんこなれた演奏だなと思いそちらに足を向けた。

はたしてけっこう年配のおっちゃんが黙々と弾いている。


   あんたさんもギターをやりなさるか


僕に気がつきそう声をかけられる。


   こなれたギターを弾かれますね
   もうずいぶん長いことやられてるんでしょう


   いやなにジジイの楽しみですよ
   昔は流しをやりながら暮らしてたこともありますがね
   もう歳で前のようにはいきませんワ


   失礼ですがおいくつになられます?


   今年で72歳
   もうジジイですよ
   いくつになってもギターだけはやめられない


そんな会話に始まりいろいろ話を聞かせてもらう。
ギターも貸してもらい弾かせてもらった。
かなり使い込んだ年代モノのガットギターに鉄線を張っている。
チューニングはどうやら1音程度下げているようだ。
あちこち自分で補修してあるが深くていい音だ。


   昔からこのスタイルでね
   ナイロン弦だと音が弱くて流しには向かないんですワ
   その代わり弦の力が強くてギターにはよくない
   見てのとおり満身創痍ですワ
   あんたさん、ウェスタンハットかぶってるところを見るとそういう音楽をなさるんで?
   なにか聴かせてくださいな


そううながされ「テネシーワルツ」や「峠の我が家」を低く静かに歌う。


   いい歌を歌いなさる
   しみる歌声ですな
   私は歯がガタガタで、もう歌はダメですワ
   直しゃいいんだろうが、先立つものがね・・・
   失礼ながらあんたさんの年頃じゃ、油の乗り切ってるころあいですな
   うらやましいかぎりです


元流しのこのじいさん(Tさん)
都内の酒場で流しをしていたが、流し自体がすたれやっていけなくなった。
その後地元新越谷や越谷駅近くの酒場で細々と歌ってきたらしい。
僕が新越谷駅で街角ライブをやっていた10年ほど前はまだそうして歌っていた。

今ではアルバイトをしながら生計をたて、休日にはこの公園でギターを弾いているそうだ。
そんなことを続けているうちに近くの子供たちに無償でギターを教えるようになったという。
青空ギター教室だ。
最近では高校生なども通ってくるという。
多分それがTさんの生きる励みになっているんだろう。

場末のミュージシャンのひとつの生き方を見させてもらった思いだ。

僕がこの歳になった時どんな形で音楽と関わっていられるんだろうか。
御年72歳というと敬愛するトミ藤山さんと同年代。
お二人の大ベテラン、それぞれの音楽との関わり方。

そして自分は・・・?
72歳、あと15年ほどで僕にもその年齢がやってくる。
15年は長くもあり、あっという間でもある。
この15年をどう生きるか。
いろいろ思うところが大きい出会いだった。


すっかり日が落ち、冷たい風が吹いてきた。
再会を約して公園を後にした。

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