樅の木はたおれた 台風の爪跡が痛々しい清津峡キャンプ場
舗装路からガードレールをのぞみ、その変わり様に言葉を失う。
うっそうと繁っているはずの樹木はなく、青い空が抜けていた。
あまりに間の抜けた明るさだ。
ここはつい先日まで「緑のタイムトンネル」の入り口だったはずだ。
トンネルどころか、何もない「空」だ。
キャンプ場入り口を示す木の立て看板は雨に洗われ、妙につるりとしている。
木目までも洗い流されたように見え、雨の激しさを物語っている。
山道に分け入ると、舗装路の直下から道は崩落している。
崩れ落ちたところを迂回し、しばらくはこれまでの道を下る。
いたるところで木がなぎ倒され、道をふさいでいる。
木の下をくぐったり、乗り越えたりしながら中間地点の鉄塔まで来た。
問題はここからだ。
正規の沢筋のルートは土砂が崩れ落ち、倒れた木々で埋めつくされている。
とても進める状態ではない。まるでアスレチックか意地悪なジャングルジムだ。
(一昨日、take-z=たけちゃんがここを乗り越えてキャンプ場に降り立ったそうだ)
ルートを反対の右に取り、のっぺりした急な斜面を降りる。
足元が直ぐに崩れ落ち安定しない。
何度か切り返し、鹿の通り道を伝いながら到着。
炊事場の屋根が風にあおられ大きく左にずれこんでいる。
バンガロー群はかろうじて健在。
驚いたのはバンガローをかすめるように木 が何本も倒れている。
これらがバンガローに倒れていたらイチコロだったろう。
奇跡としかいいようがない。
一方でねむの木、イチョウ、もみの木などの巨木は根こそぎ倒れている。
イチョウの木の周囲は一面銀杏で埋めつくされている。
例年「Live in 清津峡」を前にして収穫真っ盛りの頃だが、それどころではない。
倒れた木を切り出したり、新しい道を作るための木のクイが積まれている。
先週来アキラッチが一人でコツコツ復旧作業をしてきた様子が思い起こされる。
コーヒーを飲みながらしばらくは変わり果てた姿を目に焼きつける。
今日は大バンガロー裏手の倒木を撤去する予定。
一昨日たけちゃんが手伝った作業を引き継ぐ形だ。
数本の木が根元付近から折れている。
その先端はバンガローかすめるように折り重なり、まだ折れずに踏みとどまっている木の幹に支えられている。この幹は大きくしなり地面と平行の状態で頑張っている。
力尽きた時上に折り重なる倒木もろともバンガローの壁に直撃する可能性が高い。
一番上の木を数カ所切断し、1本ずつ取り除かなければならない。
けれどそれは思っていたほど簡単な作業ではなかった。
倒れた木の枝がからみあい、どの枝が目的の枝かわからないからだ。
また、倒れた幹にかかる荷重の方向によって切断した時の跳ねる方向がわからない。
荷重方向に応じて幹の上からチェーンソーの歯を当てるのか、下から当てるのかを予測しながら切らなければならない。
アキラッチは慎重かつ大胆にチェーンソーの歯を当てる。
僕は彼の切り落とした幹や払った枝を一ヶ所に集める作業を手伝う。
1本切るのに2時間近くかかる。
広いキャンプ場の随所に倒れた木々。
場内が終わった後は山道に倒れた木の処理が待っている。
しかも新しい道を考慮した形で進めなければならない。
新しい道をどこにつけるかはまだ様子を見なければわからない状態。
気の遠くなるような作業だ。いったいいつまでかかるのやら。
「一日一本」の気持ちでやりますよ
と、アキラッチ。
今日半日手伝って感じた問題は新しい道をどこにどうやってつけるかということだ。
倒木の処理は時間をかければなんとかなるだろう。
でも新しい道はそうはいかない。
雨が降った時の水の流れ方を見極めなければ決められない。
また、荷物を背負って(両手に荷を持っておりてくるキャンパーもいる)安全に、少しでも快適に降りれる道でなければならない。
新道の位置が決まったとして、今度はそこに土ドメの杭を打ちさらに補強しなければならない。
そこの土が踏み固められるには時間がかかる。
その間に大雨が降れば再び崩壊する可能性もある。
しかしあれこれ考えても始まらない。
やれることから一つずつこなしていくしかないのだろう。
作業に集中するアキラッチを見ながら僕はふと思った。
この作業を通してアキラッチは「清津の仙人」になっていくんだな。
キャンプ場を開き、基礎を作り、道半ばで倒れた初代「清津の仙人」のように。
清津峡キャンプ場の復旧と再建。
そのほとんどをアキラッチは一人で担うことになる。
僕たちにできるのはそのお手伝いにすぎない。
それでも時間を見つけて時々キャンプ場に行き作業の手伝いをしようと思う。
「心の故郷」清津峡再建の一端を担いたいという思いもある。
同時にアキラッチが「清津の仙人」になっていく過程を見届けたいと思うのだ。
清津峡のもみの木はたおれた。
でもそこから新しい芽が育まれ、いつかまた大きな木が生い茂る日を信じたい。
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