街角ライブの記録 5 【2003年10月20日】
Martin Koike 風の便り vol.5
2003年10月20日(月)
不思議な出逢い
★今月に入って生まれ故郷、北海道の函館に10年ぶりで帰ったり、女房の故郷山形に行ったりなどして気分はすっかり「ふるさと」だった。ライブのテーマも「故郷」で始めた。
★20数年来大切にしている歌がある。松山千春の「ふるさと」という歌だ。田舎を捨て夢を求めて都会に出てきた若者だったが思うように行かず、切ない気持ちで故郷に住む両親に助けを求めて電話した。でもそんな気持ちをぐっとこらえて「それじゃまた」と電話を切るという歌だ。30年前に単身上京した僕の気持ちそのものだった。
★歌っている時、視野の片隅に一人の若者が地べたに腰を下ろし、地面を見据えているのが見えた。歌をじっと聴いているようにも見えたし、まったく無関心でそこにいるだけのようにも思えた。ただ何か思いつめたような仕草が気になった。30分ほどで姿を消し、僕の心の中からも彼のことは消えていった。
★ライブが終わる頃、携帯が鳴った。『かざぐるま』の相棒、マサミチャン(吉田政美)だった。話したいことがあるから来てほしいという。ライヴを終え、指定されたカラオケボックスにかけつけると、そこには見知らぬ若者がいた。マサミチャンの幼馴染、マコトチャンと紹介された。なんと彼は新越谷で地べたに座り込んでいたあの若者だった。
★3ヶ月前、山形から上京した彼は仕事にいきづまり、精神的に追いつめられていた。耐えかねてマサミチャンをたずね、初めて降りる南越谷駅で聞こえた歌声にひかれ『街角ライブ』の場所に。その時歌っていたのが「ふるさと」だった。詩の中味に自分を重ね合わせ、おもわず地べたに腰を下ろし聞き入っていたそうだ。帰りがけにとったチラシにマサミチャンが写っているのを見つけ「この人があの古池さんか!」と知ったという。(マサミチャンは僕のことをずいぶん話していたようだ)マサミチャンに興奮して話し、ライブ終了後僕にお呼びがかかったというわけだ。さらに驚いたのは3日前から彼は僕の勤めるK印刷に仕事で出入りするようになったという。偶然がふたつ重なり興奮した僕たちは深夜まで語り合った。(カラオケ・ボックスにいて歌も歌わず話に花を咲かせるというのも変なもんだが・・・)
★マコトチャンとの出逢いは本当に不思議な偶然だった。彼は「出会うべくして出会った」と言った。でも人の出逢いは必然よりも偶然によるところが大きいものだ。偶然があってそこから必然へつながっていく。なんとも不可思議な人生の妙というもんだろう。
★ただこれだけは言えそうだ。偶然をもたらしたものは「歌」だった。もしも彼が僕の歌声をきかなっかたら、たまたま別の歌を歌っていたら、彼と僕の出逢いはなかっただろう。彼にとって「古池さん」とはマサミチャンの話に登場するちょっと変わったおじさんということで終わっていただろう。僕にしてもマサミチャンにつながる郷里の幼馴染ということだけで終わっているだろう。
★『街角ライヴ』を初めて1年。こんな小さな、でも大切な出逢いがたくさん生まれた。そしてこれこそが僕が街角で歌う最も大きな訳だ。「フォークソング」を意識し始めた若い頃から僕は歌を通してこんな出逢いを探し求めてきた。それが近頃少しずつ心の手帳に刻み込まれるようになってきた。「一期一会」なんていうと抹香くさいと笑われるが、僕はほんとに大切なことだと思う。たとえ一度きりの出逢いであったとしても、そのあとつながりを持つチャンスがなかったとしても、僕の人生には貴重な宝だ。
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