会社の大先輩・大往生!!
御年75歳
リタイヤしてから10年
好きな酒と競馬買いに生き甲斐を燃やし続けた大先輩・ミヤちゃんがとうとう燃え尽きた
手術による入退院をくりかえし、合間を縫うようにして後楽園に通いつめていた
ワンカップをなめながら、レースの展開を予想し、最終レースにすべてをつぎ込む
その額250円
こうして同い年のみっちゃんと、週に一度後楽園でオダをあげることがミヤちゃんの楽しみだった
ミヤちゃんの倅から容態の悪化を聞いたのは先週だった
倅はミヤちゃんの跡を継いで入社して今では中堅にまで育っている
ほどなく訃報を受け取り、倅の同僚たちと通夜にかけつけた
彼らは一様に不思議そうな顔をしている
製版畑のミヤちゃん親子と印刷畑の僕の接点が理解できないらしい
二千人規模の会社だと職場が違えば接点はなかなか生まれない
僕はミヤちゃんのおん馬仲間・みっちゃんの部下だった
部下というより呑み仲間だった
ミヤちゃんとの接点はそこに生まれた
親しくなると二人はまるで息子のようにかわいがってくれた
葬儀場に着くとお清め場の一角だけが異様に盛り上がっていた
みっちゃんを始め元労組委員長白岩さん、元課長太田さん、元常務じゅんちゃん、元協力会社社長まるちゃん、そして元技術担当先輩ねこさん
酔って
気勢をあげぐだまいていた
皆とうの昔に引退した妖怪だ
僕を見つけるやさっそくお声が…
オウ来たか!
おまえがこなきゃ始まらない
まあ飲め!
僕が若かりし頃、たてついた上司たちであり、理論闘争をくりひろげた妖怪たちだ
長い年月がそれらすべてを中和し、懐かしい思い出に変えている
誰一人としてミヤちゃんのことを口にする人はおらず、ただただ昔話に花を咲かせている
これが彼らのミヤちゃんへの供養なのだろう
多分…
次は俺だ
そんな思いが陽気な軽口の下に潜んでいるんだろう
小一時間もオダをあげた頃
みっちゃんは急に遠くを見るような目をして言った
さて
ぼちぼち帰るか
明日もまた…
来なきゃならんからな…
その声を合図に妖怪たちは腰を上げ、よたよたと歩き始めた
僕も彼らのおもり役のように一緒に歩きだした
おい
みっちゃん
けつまずいて転ぶなよ
ミヤちゃんと連チャンなんて
イヤだからな
そうからかうと、すかさず返してきた
バカやろう
宮窪と一緒にするな
その時
彼の目に
初めて涙がたまっていた
ミヤちゃんを囲むこの大先輩たちを
僕は愛しいと思った
宮窪さん
いや
ミヤちゃん
安らかに往生してください
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