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2007.04.15

友の墓前で…

友の墓前で…
あいつがこの世を去って三年になる
昨日が命日だった

会社の同僚で僕より三つ下だった
二十年前に一年だけチームを組んだ
この一年は僕にとっては転機の年だった
印刷現場の一職工にすぎなかった僕が、
会社の看板を背負い外注工場の技術指導をすることになった年で
僕は33歳
あいつは30歳だった

おそろしく頭が切れ、なおかつ弁のたつヤツだった
議論になるといつも丸め込まれ、ケムにまかれていた

なんかおかしいと思いながらも結局はあいつのペースに巻き込まれていた
けれども決していやな感じは残さなかった

バブルの絶頂期で海千山千の外注印刷会社や製本会社を相手に
単に正攻法の技術論議だけでは通用しない時代だった
何かひとつ、強烈な個性が求められていた

あふれかえった仕事を消化することを最優先された時代、
我々に求められたのは瞬時の判断と実行力、
そして人をしてその気にさせる心意気だった

切れる頭と弁舌があいつにとっての個性であり武器だった

まさにあいつの独壇場だった

一年間一緒に仕事をしたあと、あいつは製本の担当に、
僕は印刷技術担当を15年続けた

この間に時代は大きな変貌を遂げた
バブルははじけ、「安定」成長の時代を迎えた

あいつの不幸はこの時代の変化に対応できなかったことだ

不景気になり作業量の確保が難しくなると、求められるものも変わってくる
今ある仕事を守るためにミスを犯さないことが最優先事項になる

あいつの個性はその変化に合わなくなっていった

自身もそれは感じていたはずだ
もともと酒飲みだったあいつはますます、酒におぼれていった
やがて身体をこわし長期入院
職場に復帰したときはすでに身体はぼろぼろだった

しかし頭の切れはますます磨きがかかっていた
ところがそれを披露する場がすでになくなっていたのだ

まるでジジイになった浦島太郎みたいなもんだな

ぽつりとこぼしたあいつの目が忘れられない

印刷の裏技に堪能した人間は身近にはすでにいなかった
組織と正攻法がまかりとおる今のありようの中で、
腹芸・裏技そして心意気は後景に追いやられていた

あいつの発想自体を理解できる人間はすでにほとんどいなくなっていた

…………………………………………………………………………

墓石はまだ新しく、黒く光ってている
墓石の上からワンカップを半分かけ、残りの酒を口にする
線香がわりのたばこに火をつけ、立ててやる
なにを語りかけるわけでもない
ただ墓標を眺め、酒をなめる

空はどこまでも青く、夏を思わせる日差し
30分もそうしていただろうか
不意に言葉がついて出てくる

結局…
俺もお前も同じ穴のムジナだったな
俺は何とか今のご時世に合わせてはいる
でもあのヒリヒリするスリルと、
刺激だらけの日々がいまだに忘れられない
今の流れに取り残されまいと必死で
まあ、なんとかうまくやってはいるが…
本当に活かされてるって気がしない
俺たちの仕事のやり方はもう古いのかもしれないな
博物館の化石になっちまった

でもな…
あの時代は忘れたくないな

今度いつ来れるか分からんが
自分を見失いそうになったらまた来るからな
そん時はまた一緒に飲んでくれや

そうつぶやいて墓をあとにした

⇒「死に急ぐ年ってあるんだろうか」

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