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2006.09.20

JGAS2006 最新印刷システム

今日はギョーカイの話を一席。
ギョーカイといっても印刷業界の話です。
最初におことわりしておきます。

僕は印刷のデジタル管理の推進派です。
でも実態は相当にアナログ人間です。

JGAS2006という印刷業界の展示会に足を運びました。
池袋のサンシャインビルの中で開催された展示会には、製版から印刷、製本にいたるまでの最新の技術が展示されています。
以前このての展示会は製版、印刷、製本がそれぞれに最新の技術を展開していました。
会場にはところせましと製版や印刷機、製本機が並べられていました。

それがここ数年の傾向は、各工程が関連付けられた展示になってきています。
これは各工程のデジタル化が進んだため、トータル管理が可能になってきたということです。
このため、機械(ハード)の数は減り、変わってそれぞれの工程を結びつけるソフトの展示が多くなっています。

【今年のJGASのテーマ】

見つめなおそう‘印刷’、新たな発見、そしてビジネスチャンスへ
  -コラボレーションを通じ、高効率生産システムにせまる-

コラボレーションということは、
一企業の枠で完結するのではなく、
他の関連業種と共同して一つのプロジェクトを築き上げるということです。

ある意味これは画期的なことです。
印刷産業でくくられていながら、それぞれの業種は独立した歩みをしてきたのですから。
手をつないで進んでいける技術的土壌が出来上がりつつあるということなんでしょうね。

ひとつの例として、ある印刷機メーカー(R社)が他のインキメーカー(T社)や刷版メーカー(K社)と共同してRGB  Printing Solutionなるものを構築しました。
これによって従来の印刷機での色再現(CMYKという)の限界を大幅に広げることができました。つまりこれまでよりも鮮やかでキレイな印刷物が可能になったということです。
(技術コラムではないので詳細は割愛しますが・・・)

印刷産業はこの20年、製版(プリプレス)のデジタル化が急速に進みました。
製版は印刷の前工程です
ところが、印刷(プレス)や後工程の製本(ポストプレス)はアナログの道を延々と歩んできました。
これが各業種が印刷産業として共同歩調を取れなかった大きな要因です。

ところが近年製版のデジタル化の波におされる形でオフセット印刷のデジタル管理が一気に進められたのです。
製版と共通の基準で色を判断することで、視覚や経験、勘に頼らない管理が可能になったのです。
少なくともシステム的には全工程のトータル管理ができるのです。

ここまではめでたしめでたし・・・

問題は、これが最先端の話だってことです。
つまりは新しい機械で、しかもフル装備された状態で初めて可能なシステムってことです。

どんなにデジタル管理が進んでも、オフセット印刷は本質的にアナログの世界です。
デジタル機器で管理はできても、印刷機自体はアナログのカタマリ。
不安定きわまりない材料を使って(水、インキ、紙)、
じゃじゃ馬のように聞き分けのない印刷機で、
しかもその時々の温度・湿度に左右されながら作業を進めるのが印刷です。
極論すると、同じものを印刷していても1枚として同じものが作れないのが印刷です。
いわば変動要素の集合体として1枚の印刷物が生み出されるのです。

印刷をデジタル管理するためにはこれらの変動要素を可能な限り安定させるしかないのが現実です。
ところがこの安定化というのがとてつもなく難しいのです。
アナログの産物をデジタルで管理するという矛盾!
難しいのは当然ですよね。

安定化でまず考えられるのが印刷機の健康状態です。
新しい機械を導入しても、きっちりとした日常のメンテナンスがされなければ機械のスペックは急激に低下します。
機械メーカーによると新しい機械がその能力をフルに発揮できるのは2年が限界。
その後メンテナンスをしていても徐々に低下していきます。
メンテナンスがされていなければ急激に老朽化していきます。
何億円もする機械を2年ごとに買い換えるなんてことは不可能。
メンテナンスの継続で機械の初期スペックに近い状態をいかに維持するか。
印刷機の健康状態を以下にして管理するか。
これがアナログ印刷をデジタル管理する為の根幹になってきます。

次には材料の安定化
オフセット印刷は油(インキ)の反発作用で印刷するやり方です。
おたがい相容れないのが水と油。
合わないもの同士をうまく結び付けなければならないのです。
うまく・・・というのはくっつきすぎても、反発だけでもうまくいかないってことです。
適度な距離で関係を維持する必要がある。
この適度な距離ってのがなかなか難しい。
まるで男と女みたいなもんですよ。
印刷では作業の中でたえず適度な距離、適度な関係を模索しています。
印刷機の精度が上がって機械がやってくれる要素は大きいのも事実ですが、
最後のところは人間の経験値ということになります。
(つまり人間という不安定のカタマリに頼るということです!)
加えて紙という生き物を素材にしていること。
水を吸えば伸び縮みするのが紙です。
水を使って印刷するオフセット印刷。
素材の紙に水がいかに良くないか・・・

そして製造の環境
室内温度が1~2度変わるだけで微妙な影響を印刷に与えます。
湿度が変わるだけで紙に含まれた水分とのバランスが崩れます
もちろん印刷工場は温湿度の管理はされていますが、外気の影響をシャットアウトすることはほとんど困難な状況です

こういうもろもろが印刷に与える影響は大きく、これを制御することはきわめて困難。

変動要素のカタマリを制御しているのはつまるところ人間のKKDなのです。
KKDとは勘・経験・度胸のことをさすQC(品質管理)用語です。
作業の平準化を目指すQC活動では、否定的に扱われている言葉ですが…
現実の印刷現場ではKKDなしに作業を進めるのは困難なのが実態です。

印刷に携わる人間が最も腐心するのがKKDに頼らない作業をどう構築するかということかもしれません。

つまり現代のオフセット印刷最大の課題は

デジタルが確立した製作・製版で作成した画像を
アナログ機で安定して再現させる技術を確立する

ということにつきるのではないかと思います。

どんなにデジタル化が進んでも、
アナログの環境を安定させる技術を持たなければ
すべて絵に描いたもちに終わってしまう

プリプレス主導のデジタル化の最新システムを見るにつけ、
そんな思いがよぎってしまいます。

そんな時こんなキャッチコピーを目にしました。

デジタルの創造力をささえるのは
頑固なアナログ魂です

妙に力づけられるキャッチでした。

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