浅草寺のほおずき市
ほおずき
作詩・作曲 : さだまさし
いくつかの水たまりを残して
梅雨が駆け抜けてしまえば
しめった風の背中越しに
きみの好きな夏が来ますあの日きみにせがまれて
でかけた小さなお祭り
綿菓子の味 アセチレンの光
きみは赤いほおずきを買ったため息でまわした ひとつのかざぐるま
とまらずに とまらずに
まわれと二人 祈っていたのにきみの下駄の鼻緒が切れた
ひとごみに まかれて 切れた
僕の肩にすがり うつむいたきみは
おびえるように 涙をこぼした走馬灯に照らされて
僕はほおずきをかんで
風鈴の唄に合わせてきみが
団扇で そっと風をくれた僕の肩越しに
子供の花火をみつめ
きみは小さくつぶやいた
消えない花火があるなら欲しいとたわむれに刻んだ
二人のたけくらべ
背のびして 背のびして
つま先立っても とどかないあの日のお祭りに
今夜は一人で行ったよ
想い出のほかに ひろったものは
誰かが忘れた ほおずきをひとつ
30年前、
北海道の片田舎から東京に出てきた僕は一人の少女に恋をした
Rumiちゃんという大学の同級生だった
函館弁丸出しの僕にはRumiちゃんがまぶしかった。
Rumiちゃんの発する涼やかな標準語
洗練された都会的なファッションセンス
どれをとっても僕にはないものに思えた
どこでどういう具合になったか…
田舎者の僕とRumiちゃんのつきあいが始まった
淡い恋だった
断片的にしかおぼえていないRumiちゃんとの記憶は
いくつかのきらめきのような想い出と、苦い後悔とが交錯している
7月のある日、僕たちは浅草寺に出かけた
雨上がりのむし暑い夜だった
ほおずき売りの露店は活気にあふれ
アセチレンの灯りは幻想的だった
手をつないだ僕たちは人形焼をほおばりながら
いつまでも歩き回っていた
Rumiちゃんが買ったほおずきの朱色が目に焼きついた
しあわせな時間だった
この時間がいつまでも続くことを祈っていた
やがて夏が過ぎ、秋風が吹きはじめた
僕たちの間にも少しずつすきま風が吹き始めた
僕は左翼学生運動に身を投じていた
Rumiちゃんは右翼的な体育会系のクラブに身を置いていた
気持ちの部分でたがいに寄り添おうとした
でも、いろんなことで微妙にすれちがう…
1年後の春だった。
僕たちは巣鴨の「パイオランド」という喫茶店で向き合っていた
二人とも伏し目がちで、話す言葉を探していた
思い切ったようにRumiちゃんは口を開いた
私…
小林多喜二にはなれない…
「党生活者」の女にはなれない…
返す言葉もなく僕は押し黙ったままだった
あなたのこと
好きよ…
でも…
やっぱり、あなたとは歩けない…
僕の淡い恋は終わった…
その年の7月
僕は浅草の駅に降り立った
もしかしたら…
「ほおずき市」にRumiちゃんが来ているのでは…
そんな淡い期待があった…
けれど…
それはありえない願いだった
Rumiちゃんへの未練を断ち切るための「ほおずき市」になった
以来30年、「ほおずき市」には出かけていない
Rumiちゃんへの恋心は封印され、やがて風化していった
さだまさし(グレープ)の「ほおずき」
毎年この季節になるとステージで歌う
ほろ苦い想い出をかみしめながら…
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コメント
リンクありがとうございます。
私もその内リンクしますね。
投稿: PA_LA_LA | 2006.07.11 00:25
はぁい!
よろしくね!!
投稿: 管理人 古池 | 2006.07.14 13:25