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2006.05.09

函館~札幌 自転車で駆け抜けた日

生まれ育った函館をスタートして

高校時代をすごした室蘭経由で

実家のある札幌へ…

40歳の誕生日に400キロの道のりをImg320

2日がかりでチャレンジしました。

父の1周忌に参列するためです。

相棒はロード・レーサーの「レッド・アロー号」。

12年前の話です。

函館帰郷日記の最後は、

この時小冊子にした記録を

そのまま掲載してしめることとします。

函館⇒室蘭⇒札幌
  400キロ自転車小旅行の記

平成6年4月

4月で40歳になった。特別な感慨というものはなかったが、この年に何か意味を持たせたいと以前から考えていた。
人生80年とするならばちょうど折り返し地点になる。
生まれて20年を北海道で過ごし、次の20年を内地で暮らしたことになる。
原点に戻って自分を振り返るよいチャンスだと思っていた。
原点としての条件は次の二つである。
自分の生まれ育った土地―北海道であること。
自分が子供のころから続けていることであること。

最初「サロマ湖100キロマラソン」に挑戦しようと思いトレーニングを続けていた。

けれど昨年4月に父が亡くなり、前後2年間はトレーニングを日常的に積み上げていくだけの精神状態でなかった。死後も遺稿集を作ることでほとんど自分の時間と心は費やされていた。

「サロマ湖」の夢は当分おあずけにせざるをえなかった。

けれど何かしたかった。このままずるずる年を重ねることがこわかった。

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目を覚ますともうすでに日は上がっていた。

列車の窓からは海が見えている。

そしてその向こうには函館山がぽっかりと浮かんでいる。

僕の生まれた街、函館の街が朝日を浴びてキラキラ光る海の向こうにかすむ。

山を切り開いた狭い土地が海沿いに続く。

へばりつくように木造の古い家が点在している。海風に屋根を持っていかれぬように漬物石ほどの大きさの屋根石をいくつも乗せている様子が懐かしく、少年時代を思い出させる。

父の1周忌に自転車で帰るというのが次に生まれた夢だった。
函館を出発、高校時代をすごした室蘭を経由して実家のある札幌まで走る。
距離にしてちょうど400キロ。
自分の原点を振り返るには充分な距離だ。

函館駅で列車を降りて自転車を組み立てていると高校生が物珍しそうに眺めていく。
すぐに出発するはずだったが懐かしさも手伝って、しばらく函館の街を流して叔母の家に立ち寄る。
祖父母の遺影の前で線香を上げ報告をする。

「あなたたちの息子の1周忌にこれから出発します」

妙に神妙な気分でスタートした。

さいわい天気はよいが、4月の風はまだ肌にいたい。

追い風のためスピードに乗ってグングン距離を稼ぐことができる。

大沼公園にいたるだらだら登りを苦もなく乗り切ってしまった。中学生のころこの同じ道を何時間もかけて仲間たちと走ったものだ。当時は大冒険のつもりだった。

峠のトンネルを越えると目の前に大沼が広がり、その向こうに駒ケ岳の勇姿が姿をあらわす。

これから森町までは下りが続くはずだ。

道路の脇にはまだ雪がところどころ残っている。
猛烈なスピードで身を縮めながら森町まで下りきってしまった。

駒ケ岳の裏側を眺めながら最初の休憩をとる。売店で牛乳とアンパンを買ってほおばる。
中学時代のサイクリングにこの組み合わせは欠かせなかった。
今と違って売店で売ってるものは少なかったが牛乳とアンパンだけはいくらでもあった。

ここから長万部までは平坦な道が続く。
右手に海を見ながらどこまでもまっすぐな道をひたすら走る。
頭の中は空っぽ。

八雲の薄汚れた飯屋でラーメンをすすっているとダンプの運ちゃんが声をかけてきた。

どごまで行ぐのサ。
何? ハゴダデから札幌?
やめれ、あぶねぇぞ。
礼文華の峠でオメェ、去年自転車で人死んだばっかりだぞ。
とにかくトンネルせめぇがら自転車だらあぶねぐて、通れねぇてば。
俺、室蘭まで行ぐから乗してやっから

さんざんおどかされビビッてしまったが、ここまで来て今さらやめるわけにもいかず、
運ちゃんに礼を言って再びスタートした。

長万部までの平坦路は難なくクリアーした。
今日の行程の約半分を走破したわけだが、函館で遊んでしまったため予定より1時間くらい遅れている。
しかもこれからは峠道が80キロは続く。
下手すると山の中で日が暮れてしまうので休憩抜きで登りに入った。
すでに100キロ以上走っているのでひざがギクシャクし始めている。
風向きも変わり向かい風になっている。
内心あせりながら小さな峠をひとつずつクリアーしていった。

問題の礼文華のトンネル群にさしかかる。
大休憩。
ライトを点検し、気合を入れて車の切れ間を待つ。
信号の数が少ないこともあってか、何十台かまとまって車が通過した後はしばらく来ない。
そこをねらって一気に走りぬけよう。

最後のトンネルを通過。
出口から抜けるや否や、脇に自転車をほうり出して荒い息でゼーゼー。
背中は冷や汗でぐっしょり。
心臓はドキドキ。
実際はそれほど危ないとは思わなかったが、緊張感で気持ちが張り裂けそうだった。
しばし放心状態でいた。

気を取り直してまた自転車にまたがったときにはもう太陽が傾きかけていた。
上り下りをくり返しながら洞爺の駅に着いた。
僕の記憶では宿泊地の伊達紋別まで後1駅。
ゆっくり休憩しようと思った。
駅舎に入りコーヒーを注文しながら、ふと掲示板に目をやると、
なんと、伊達紋別までまだ3駅もあるではないか。
あせってコーヒーを飲み干して走り出した。
北海道の3駅は長いのです!

何とか日没と一緒に伊達紋別の駅に到着することができた。

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名前はビジネスホテルだがベニヤ板1枚で仕切られただけの安宿で目覚めるとひざの調子がおかしい。
どうやら礼文華の登りで痛めたらしい。
湿布を貼ってゆっくりと走り始める。
ここから東室蘭までの20キロは高校時代何度も自転車で通った路。
当時を思い出してかみしめるように走った。
稀府を抜け黄金の駅で、早いけど一服。
ここの街は高校生のころあこがれていた女の子が住んでいたところ。
素通りするのがもったいなくて。

東室蘭を抜けて母校まで足を延ばしてみた。
増築されたり環境が整ったりで、僕の知っている母校ではなかったのが残念だった。
近くをぶらつき旧友の家を訪ねたりしたが、すべて流出しており、近所の噂話としてしか残っていなかった。

親父さんの会社が倒産して夜逃げしたとか、新日鉄室蘭の縮小で移転して行ったとか、あまり明るい話が聞けなかったのが残念だった。

気を取り直して苫小牧までの路を走り始めた。
ここも曲がったことの大嫌いな北海道の一本道。
白老までは追い風にあおられながらいいペースで走ることができた。
ところがそこからがいけない。
左手に樽前山が見えてくるころから急に風向きが変わり、猛烈な向かい風。
スピードが一気に落ちてしまった。
こげどもこげども前に進まない。
遠くに見える苫小牧の製紙会社の煙突がいつまでたっても近づかない。
いやになりました。

苫小牧にたどり着いたときは予定より2時間近くオーバーしていた。
駅前にジャズ喫茶でコーヒーとトーストだけで昼飯を済ませてすぐに走り始めた。
ここからは未知の路。
海沿いの道を左に折れて原野の中へ切り込んでいく感じ。
風は弱まったが延々と続く原野の中の一本道を一人こぎ続けるのは精神的にハード。
とにかくどこまでも原野。
ひとりでに口をついて歌が出る。
歌でも歌わなければやりきれない。

果てしない大空と 広い大地のその中で
いつの日か幸せを 自分の腕でつかむよう
歩き出そう明日の日に 振り返るにはまだ若い
吹きすさぶ北風に 飛ばされぬよう 飛ばぬよう
凍えた両手に 息を吹きかけて
しばれた体を あたためて
生きることがつらいとか 苦しいだとか言うまえに
野に育つ花ならば 力の限り生きてやれ

(松山千春 『大空と大地の中で』)

歌うこと2時間。
千歳の町を抜け、いよいよ札幌に向かっての登り下りが始まる。
疲労はピークに達し、ひざも油が切れたかのように悲鳴を上げる。
太陽は地平線のかなたに落ちかかっており、急に冷え込んできた。
交通量も増え、追い上げてくる車の音に神経をすり減らす。

やがてはるかかなたに見慣れた建物が見えてくる。
新札幌の駅だ。
もう一息。
国道12号線に入り、野幌の森林公園を目指す。
急に元気が出てきた。
最後の力をふりしぼってペダルを踏む。

実家に着き母に一言。

やあ、今着いたよ

母が一言。

父親の1周忌だってのに自転車なんかできて、
あんたハンカクサインデナイノ

400キロ走りながら自分の原点を見直そうなんてことを考えていたが、
そんな余裕もなく終わってしまった。
けれど満足している。
今ある力をすべて出し切るということは年を重ねるほど難しくなるだろう。
人生の折り返し地点でそれができたということに満足している。

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