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2005.11.25

女一代記 瀬戸内寂聴

瀬戸内春美はなぜ出家の道を選んだんだろう…。

30年前、ニュースを見たときの素朴な疑問でした。

当時の僕はまだ若く、出家といわれてもぜんぜんピーンとこなかったんですよね。

奔放な女というイメージと、出家とがどうしても結びつかなかったんです。

見合いで結婚した亭主と娘を捨て、亭主の教え子良太との純愛に走った春美。

若さゆえに実らず、小杉慎吾との愛に身をまかせた春美。

小杉は売れない作家で生計は妻の内職でなりたっていたようです。

でもちょっと人生に疲れた小杉によって春美は小説家として成長していきます。

小杉の二重生活のうえで10年近くなりたっていた二人の関係。

ところがふたたび現れた良太によって変化が・・・。

春美の方も二重生活になり、春美の心はしだいに疲れていく…

やがて小杉とは破局を向かえ、良太との生活が始まります。

良太とは決して生産的とはいえない関係ですが、あたりまえのことのようにのめりこむ春美。

最後は良太が若い娘と結婚することになり、愛憎に彩られながらも終わりを告げる・・・

はあちゃん・・・

あんた、苦しい?

姉の問いかけに春美はこう答えています。

書くことでは…

救われん・・・

心身ともにぼろぼろになった春美は今東光を頼り出家の決意を・・・

春美は小杉とも、良太とも真剣だったと思います。

小杉のことは本当に愛していたんじゃないかな?

だから別れの手紙を送ってなお思いは募る・・・

募る思いを断ち切っての別れだったと思います。

春美のことを一番理解していたのは小杉で、小杉のことを一番分かっていたのは春美だったんでしょう。

俺たちは、結びつき方が違うよ。

(お前は)おめかけさんとはぜんぜんちがう。

こういう小杉の言葉にうそはなかったでしょうし、

お手当てもらってないしね。

と冗談で応える春美も、小杉への愛情と信頼があってのものでしょうね。

小杉への愛情を持ちながらも、ふたたび現れた良太への思いも断ちきれず関係を重ねてしまいます。

良太に対しては

憐憫よ!

と言いつつ、思いがおさえられない春美…

生命力がありすぎるんだよ。

だから生命力のない男が現れると…

春美の生命力はみんなその男の方に流れ出していくんだ。

小杉の分析はまとを得ているんじゃないかな…

心が満たされる関係ではなかったかもしれませんが、まちがいなく小杉とは違った愛し方をする春美。

たぶんそれは、執着なんだと思います。

自分のおさえがたい心に正直に生きてきたのが瀬戸内春美という人なんでしょうね。

自分の心に正直であるということは、ものすごく難しいことだと思うんです。

正直に生きた結果、奔放な女とまわりからはみなされ、亭主や小杉や、最後には良太との別れが・・・

正直に生きてきた結果、疲れ果てた春美。

特に良太に対する執着は、愛であり憎しみであったわけで・・・

それは煩悩とよばれるものだったんでしょうね。

恋に生き、恋に疲れた女が

髪をそり、出家する

これが私の行きついた場所なんでしょう・・・

私は自殺をしないために出家したんです。

出家とは…

生きながらにして・・・

死ぬことなんですよ

この言葉がやけに印象に残っています。

それにしても、法名の寂聴…

寂しさを、聴く

考えちゃいます・・・

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