女の一代記 越路吹雪
越路吹雪の歌にはハートある
僕が高校生のころ、越路吹雪と同年の父がよくそう言っていました。
僕には、どこがいいのかさっぱりわかりませんでした。
語尾を切る独特の歌い方が耳障り!
これが正直な感想でした。
それどころか彼女の顔は醜悪で、化け物のようにすら感じていました。
当時の父と同じような年齢になって(つまり越路吹雪と同じような年になって)、
今あらためて越路吹雪の歌を聞いて、感じます…
うまいワ!
ハートを感じる…
まいったなこりゃ…
あのころ、越路吹雪の歌がいいと思えなかったのは、単に僕が若くて理解できなかったということだけではないように思えます。
当時音楽界に登場し始めたフォークシンガーはみなジーパン姿の薄汚いナリで歌っていました。
そんなフォークシンガーを越路吹雪は批判していたのです。
舞台に立つ姿勢ではないというような批判だったと思います。
フォークシンガーたちの旗頭は、若者の手で音楽を発信するというものでした。
プロの手に握られていた音楽を商業主義=資本主義と感じていました。
本当の民衆の音楽を若者の手で作ろうという機運が支配していたのです。
当然きらびやかな衣装で、プロの作った歌を歌い、金儲けをしている歌手には懐疑的でした。
そして、僕もそういうフォークシンガーに側にいたのです。
そんな機運の中で高校生のころの僕は『サントワマミー』を大まじめに茶化して歌ったりしていました。
『ラストダンスは私に』なんかは越路吹雪の歌ではなくドリフターズの方がよいと思ったし、『愛の賛歌』はブレンダリーをコピーしていました。
越路吹雪が終戦後、民衆に夢を与えるのがスターの仕事と考えていたということをドラマではじめて知りました。
戦後からの脱却が時代の求めていたものなんでしょうね。その意味で日本にはスターが必要だった。
ショービジネスは華やかでなくてはいけない。
気持ちのゴージャスさは人に伝わるものよ。
歌も雰囲気も衣装も楽しんでほしい。
だから歌手は贅沢でなくちゃいけないの。
彼女のリサイタルに来るお客さんが、みな着飾っているのは
そんな、越路吹雪の思いを判っているから…
越路吹雪と岩谷時子のそんなやり取りがありました。
そんな視点で彼女の歌を聴くと、今まで僕に見えなかったものが見えてきます・・・
そして大きな共感を覚えます。
時代の要請に応えきるることで自分を活かせる
それは彼女がたえず自分の中の空洞と戦っていたこととの裏表なのかもしれません。
空洞…
私はもしかしたら月夜の蟹かもしれない。
月夜の蟹は実がないというでしょ?
パリでエディット・ピアフの歌を聞いたときショックだったの…
歌い終わったら、そのまま死んでしまいそうなほど
全身全霊で歌うピアフ…
私には中身がないと思い知らされた
そんな思いが彼女をたえずさいなんでいたんじゃないかな。
だから舞台へ駆り立てるスターでありたいという情熱
その反面で、舞台に立つまでの極端な恐怖感。
岩谷時子は越路吹雪の背中に虎の文字を書き
あなたは虎よ
お客様は、みんな猫・・・
大丈夫
そういって背中を押して舞台に向かわせる…
舞台に立った瞬間、彼女は客の求めるスターになりきる。
芸人から歌をとったら何も残らないわ
魂を持ってかれないように大事に歌わなきゃ
越路吹雪のこの言葉、
50歳を超えて今、初めて分かります。
明日レコード屋さんに走り
越路吹雪のアルバムを買い求めている…
そんな自分が目に浮かんでいます。
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コメント
シャンソンがブームだった時代、「聴くなら岸 洋子、見るなら越路吹雪」とかつて言われたらしいですが、わたしが越路吹雪はスゴイなぁと思わせたのは、何かの音楽祭で最優秀歌唱賞を受賞したVTRを見たときで、そのときの歌は『誰もいない海』を聴いたときでした。
『誰もいない海』といえば、あのトワ・エ・モアなのですが、当然以前から知っている曲なのですが、それはまるで違いました。
歌詞としてもとから良い詩なのですが、聴こえてくる言葉のパワーがビシビシと伝わる・・・。
いわゆるシャンソンの本領発揮といったところですが、バックのオケのドラミングに煽られるように、いや、逆にオケをグイグイと引っ張ってゆくように歌うその歌に思わず古池さんのように翌日CDをやはり探してしまいました(笑)。
投稿: MATSUMURA | 2005.11.26 15:02