「青春の門」(五木寛之)を読み終えて
昨年暮れに、函館で暮らす母から小さなダンボール箱が送られてきました。
中には「青春の門」が文庫本で10冊、そして辻仁成の「函館物語」。
黄色に変色した紙にインキの臭いだけが妙に生々しい本でした。12年前、父がガンとの闘病中に読んでいた本だそうです。
「青春の門」は筑豊編・自立編・放浪編・堕落編・望郷編・再起編の6つの章に分かれています。送られてきたのは望郷編までの10冊でした。
おそらく、望郷編まで読み進んだ後父の様態は悪化したのではないかと思います。文字通り、再び起きることなく旅立っていったのではないかと思います。
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「青春の門」にいささか偏見をもっていました。
尾崎士郎の「人生劇場」の二番煎じだろう…と。若い頃の僕は「人生劇場」に強烈な影響を受けていたもんで五木寛之を軽く見ていたようです。
再起編を買い足し、昨日読み終え、深い余韻にひたっています。(いまさらながら五木さん、ごめんなさい)
主人公、伊吹信介の幼年時代から青春時代の放浪の旅までを描いた大河小説。信介の心の旅路が縦糸なんでしょうけど、いろんな視点から読むことができ興味深い物語でした。
父・重蔵は落盤事故で閉じ込められた労働者を自分の命とひきかえにダイナマイトで自爆して、助けました。「のぼり蜘蛛の重蔵」「ふっきれたよか男」として伝説化していました。重蔵にあこがれ、自分もそうなりたいと願いながら信介は幼年時代を炭鉱の町ですごします。(筑豊編)
けれど信介の性格は「ふっきれた」というよりも優柔不断に近く、あれこれと思い悩むたちでした。父へのあこがれと、そうなれない劣等感は信介の性格を形作ることになり、上京した青年時代にも影を落とすことになります。
世話になった塙竜五郎の援助を断り、深夜ひとり東京に旅立つ信介を突き動かしたものは間違いなく父のもつ「ふっきれた」男としての生き方だったろうと思います。(自立編)
自分が本当にしたいことを探さんがために単身上京し、早稲田大学に入学。けれどそこは貧乏学生には居心地の良いところではなく、信介はまずは生きんがために製本屋でのアルバイトにあけくれます。結局そこを首になり、製薬会社に自分の血を売りながら毎日をしのぐことになります。
人生の目的探しを胸にいだく信介は、授業に出席するよりも同居人緒方とさまざまな活動に参加するようになります。その中で社会のもつ矛盾にまきこまれ、「持たざる者」としての自分を強く意識します。
時は昭和30年。60年安保闘争まであと5年という時でした。
しかし信介は優柔不断であるがゆえに、これだと信じれるものを選ぶことができませんでした。
やがて迷いをかかえたまま緒方の演劇活動に身を投じ、函館まで放浪してゆきます。(放浪編)
演劇を通して労働者・農民の覚醒をうながすという考えです。緒方はインテリ学生の作った演劇を中央から地方に持ち込んできたそれまでの活動を批判し、大衆の中で暮らす中から生まれてくるものが本当の演劇運動だと考えます。しかし筑豊の炭鉱労働者の中で育った信介は労働者は緒方が考えているほど軽いもんではないと感じています。
函館では港湾労働の仕事をしながら上演までこぎつけますが、港湾労働者を仕切っているヤクザの妨害で挫折し、札幌まで逃げます。
信介はここで織江と再会し、生活をともにするようになります。
織江は筑豊の炭住(炭鉱住宅)住まい時代から信介を慕い、影のように寄り添ってきました。信介を追いかけ東京に出てきた織江は信介と気持ちがかみあわず、信介のもとを去り、札幌で夜の蝶として働いていたのです。
結局札幌での暮らしは破綻し、東京に戻ってきた二人はそれぞれの道を歩き始めます。(堕落編)
織江は信介のことだけを見つめ小さな幸せを求めています。信介は織江に筑豊のすべてを見出し依存している自分を自覚しながらも、もっと別の生き方を探そうとします。織江はそんな信介を深く愛しながらもいっしょにやっていけないと感じ、プロダクションの誘いに乗って艶歌歌手を目指します。信介は心の中でもがきながらもズルズルと自堕落な暮らしを続けてしまいます。
そんな信介の下に筑豊の竜五郎が刺されたとの知らせが届き、九州へ。(望郷編)
竜五郎の養子として、傾きかけた塙運送の建て直しをはかるためプロレスの誘致をします。興行は成功しますが竜五郎は亡くなってしまいます。筑豊に関わるすべてを失った信介は再び東京へ。
そこに待っていたのは、思いもかけぬチャンスでした。自動車にはねられた信介を車の持ち主で大実業家の林が書生に迎えたのです。林は信介の資質を見抜き、将来、娘・みどりの婿にしようと思ったのです。みどりも信介のことを好きになり、信介も今まで会ったことのないブルジョアの娘に淡い恋心を抱きます。
2年という平和な日々に終止符を打ったのは織江からの申し入れでした。(再起編)
織江は売れない歌い手として後がないところまで追い詰められていました。所属事務所をやめて独立しようと考え、信介にマネージャーにならないかともちかけたのです。売れるまでは昔の恋人であったことは棚上げして、ビジネスパートナーとして割り切ろうという合意のもとに二人は再起をめざします。
ざっとあらすじを追いましたが、息切れしてきたので今日はこの辺で…
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コメント
30年も前に五木の『青春の門』の筑豊編を読んで、昔の田舎からの流出について少し書こうとするところ五木の本を思い出した.Wikiとそちらのノートを見つけた.五木の本を再び読む暇はないので、どんな本か、後の編はどんな内容か少しも把握出来、ありがとう.スミツカ・マイク
投稿: mike smitka | 2013.08.11 10:44
mike sumitkaさん。
中途半端に終わってしまいましたが、少しでもお役にたてれば。
投稿: Martin古池 | 2013.08.13 19:41