あ！ お元気でしたか

逆光の朝日の向こうから、向かってくる自転車の見慣れたシルエット。

「あ、おじさんだ！」

心の中で叫ぶと、おじさんはすでに気がついているようで片手を大きく上げてにこっと笑い挨拶をしてくれた。

「おはよう！」

そのまますれ違い、あっという間に遠ざかってしまった。

おじさんは街乗り用に改造したTバーのロードレーサー。
僕は同じく街乗り様に改造したMTB（マウンテンバイク）。

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何年か前から朝の通勤自転車で毎日すれ違うおじさん。
もう60近いのではないかと思うが、よくしまった身体に蛍光イエローのウィンドブレーカーがトレードマーク。
晴れた日はもちろん、風の日も小雨の日もおじさんはやってくる。
県民福祉村の方から田園地帯を抜けて走ってくる。
僕とすれ違うのは閑静な早朝の住宅街の一本道。

お互いなんとなく意識はしていたのだが、去年の夏初めて挨拶を交わした。

以来毎朝交わす挨拶が日課になっていた。
挨拶を交わすだけ。ただそれだけの関係。
互いのことは何にも分かっていない。でも僕には結構心地いい日課だった。

この冬、おじさんはパタリと姿を現さなくなった。
どうしたのだろうかとなんとなく気になっていた。
病気でもしたんだろうか。
落車してけがでもしたんだろうか。
それとも退職したんだろうか。

住宅街の一本道を通過するたびに思うともなく思っていた。

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挨拶を交わした時、おじさんの顔は破裂しそうに笑っていた。
ぼくもつられるように顔をくしゃくしゃにさせた。

でもこの冬のできごとをおじさんに聞くことはないだろう…。
そう。ただそれだけの関係。